毛づくろいを終えたキスケは魔法陣が作動したことに気がつくと、
ハムスターのまま走り出す。
魔獣である彼女は他と違い衣服を必要としない。
だが、走る彼女の小さな足には何かがきらりと光る。
かつての仲間がくれた小さな自分のための装飾品。
縁日で売られていた自分は弱くて明日にも捨てられそうだった。
そんな視力も劣った自分を大切にしてれた人はもういない。
あの人の魔力で知らずに体が丈夫になっていく自分を撫でてくれた人は
人間に消された。
あの時、こっそり付いていけば良かった。
壊れるあの人を喋れない自分じゃどうすることもできなかった。
仲間がいなくなった後、あの人は…自分には出来ないと、そう涙をこぼしていた。
確かにその時まだあの人はいた。
なのに…狂ってしまった歯車のまま回りだす世界にあの人はいなかった。
その全てを奪った人間が憎い。
心のどこかであの人を裏切っていた子供の子孫なんてあの人とは関係ない。
それどころか、守ると約束したのに破ったあの男の子孫。
汚い。
壊れるあの人を好いていたくせに壊れた後戸惑った女の子孫。
憎い。
敵対する天のものに堕ちた女の弟子。
汚らわしい。
守ると約束した。
一緒に戦うと誓った。
それを裏切った人間達の血を引く者。
忌むべき存在。
自分に世界を見せてくれた人を踏みにじり、奪った人間達が憎い。
全て全て滅んでしまえばいい。
あの人の運命を弄んだ天が、勇者が、歪ませなお続く性が。
グレムリンへと姿を変え、甲高く咆哮するその声にぎくりと構える魔物達は
背筋を震わせ、つられる様に思い思いの雄たけびを上げた。
物陰に隠れる人陰はその咆哮を聞き、悲しげに目を伏せ闇に溶け込んだ。
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