ヒュドラと戦った門前に出た一行はゆっくりと開く大扉を見上げ、
其処から聞こえる獣の咆哮に体をこわばらせる。扉の向こうは木々が立ち並ぶ森林。
膝まである草が点在し、むやみに進むことをためらわせる。
「先ほどの獣の声…もしかしたら魔獣などが多くいるかも知れません。」
 さすがにいっせいにあげられた雄たけびで何がいるかわからないポリッターだが、
いくつも見えるような気がする視線に炎の魔法が出せるよう体の中で力を溜めた。
 事前にネティベルにより強化呪文は唱えられているが、
若干間隔を広げながら進む一行は背後でしまる大扉の音を聞き、
終わるまで出られないのだと実感する。
 
 
 強い殺気にエリーが先手を取ると短剣を幾本も投げつけ戦いが始まった。
 
「包囲系 中級爆裂魔法 炎壁」
 溜めていた魔法を詠唱せず唱えたポリッターの手から放たれた炎の壁は、
木々を燃やしながら草を燃やし、隠れていた魔獣を暴き出す。
 体を自ら燃やすトカゲ…通称サラマンダーはその壁から抜け出すといっせいに飛び掛った。
 
「お婆ちゃん直伝流星群!」
 キャシーが上空に放った矢が折り返し、魔獣たちの頭上へと雨のように降り注ぐ。
地面へと縫いとめられる魔獣を踏み越え、狼の姿をした魔獣が襲いくる。
 
 エリーは体勢を低く構えると狼の群れに飛び込み、
すばやく脚を傷つけ群れを崩させた。
乱れたところでジュリアンの拳が地面を殴ると衝撃が地を這い、
狼達の足元で爆発する。
 
「祖父直伝 瞬速剣 風鎌鼬」
 チャーリーの放つ鎌鼬が風となり吹き抜けると魔獣たちは次々に消滅し、
その後から大きな蟲のようなものが現れた。
「きもちわるい〜〜。」
 アイアンが嫌悪する顔を見せる中、ジミーはごくりと唾を飲む。
そういえば主食は虫だった、とキャシーは彼の食べられる料理を模索している途中に
気がついたことを思い出し、ちょっと食材としてみるがやっぱり気持ち悪くて無理と目を逸らす。
「また気持ちの悪い…。ジュリアン!カマキリの鎌に気をつけろ!
 虫と同じなら神経毒をもっているはずだ!」
 振り下ろされる鎌を避け、違う蟲の元に行くエリーはすぐ近くで戦うジュリアンに忠告する。
 
 頷くジュリアンだが、上空を飛ぶ蛾に気がつき、手近な蟻のようなものを投げつけた。
「燐粉を浴びないでください!毒です!!」
 チャーリーの放つ火炎鎌鼬により燐粉が燃えるが数が多すぎる。
焦るチャーリーだが、上空にいる大きな鳥に気がつき、体を反転させる。
今までいた場所には大きな羽が突き刺さり、上空の鳥はネティベルの風を避けた。
上空に気を配るネティベルは強烈な冷気を感じ、避けきれずに足元を凍らせられ、
エリーが駆けつける。
現れたのはあの氷結の獅子ムファスカー。
「炎々!」
 ポリッターの放つ炎にムファスカーは慌てて避けると
ダイアモンドダストを撒きながらキャシーに飛び掛る。
 
いつの間にか他の魔獣・魔蟲は姿を消し、上空の鳥も見えない。
気配が消えていないことにいぶかしむベルフェゴだが、
とにかく目の前の敵、ムファスカーを倒すことに専念することとした。
 
「祖父ソーズマン流豪風剣 猛虎、双牙!」
 飛び上がり、頭上から一対の刀でムファスカーを狙うベルフェゴ。
直撃する瞬間、何者かのけりをくらい、そのまま飛ばされる。
 
 
「魔王軍第3軍空中隊隊長、飛廉の鷲ガルーダ=スバルナ。
 ブルサフィ様を倒したくば我らを打ちのめしてみせよ。」
 現れたのは茶羽の鳥人。
獰猛な嘴と目は猛禽類を表し、彼の言葉から鷲の鳥人と想定する。
鉤爪の脚を蹴り上げると翼…腕の先端にある鋭い鉤爪のある手でチャーリーの刀を受けた。
すかさずムファスカーが凍てつく息を吐き、ポリッターが相殺する。
格闘家であるジュリアンもスバルナとの戦いに加わるが、
翼を使っての攻撃に翻弄される。
異常に硬い翼は閉じれば盾になり、腕を曲げた状態で開けば鋭い刃になる。
 
 
 あわあわと見守っていたウェハースは皆から少しはなれ、一人草陰に隠れていた。
ふと、目の前の草が動き、小さな動物が姿を現す。
魔界から離れ、放浪している最中に見たことのある生き物にほっと息を吐くと、
どうしてこの場にいるのだろうかと首をかしげた。
 動物の方も驚いたように固まり動かない。
撫でようとするウェハースにその生き物は毛を逆立てると前歯をむき出しにし、
殺気を放った。