ハムスターの姿で隠れるキスケは次の攻撃、と白魔道師を先に倒すべく背後に回っていた。
 白魔道師は長期戦に持ち込めばMPが無くなり戦いやすくなるが、
それまでは回復をしてしまって攻撃する気が失せてしまう。
一行に同行している時、何よりもあの白魔道師が戦闘において重要だと学んでいるだけに
先に倒す必要がある。
 射手の足は先ほどの根により後一回ほどで倒せるようにしてある。
 ふと、格闘家の溜める気合に気がつき、いやな本能的な予感に全身の毛を振るわせた。
放たれた衝撃波は早く、木に登ろうとしたキスケに襲い掛かる。
 
 
【    !】
 
 誰かに呼ばれた気がすると同時に、衝撃波から何かが盾になりそのまま宙へと運ばれた。
見上げれば見たこともない黒い蝙蝠。
今の主人、魔王様かと思うがいつも見慣れた蝙蝠ではない。
蝙蝠はあの衝撃波でダメージを追ってしまっているらしく、
飛び方が不安定で頼りない。
 前を見ながら枝に降ろそうとする蝙蝠が
懐かしい匂いを纏っていることに気がつくと同時に何かがかすめ、枝に投げ出された。
 力を失った蝙蝠はそのまま地面に落ち、見えなくなってしまった。
 一瞬見えた目の色に全身の血の気が引くと同時に、黒い感情が無限にわきあがってくる。
それは初めて人間を憎んだ時と同じほど…いや、それ以上の怒りと憎しみ。
 グレムリンへと姿を変え、地面に飛び降りると、
うずくまり気を失った蝙蝠が力なく投げ出されていた。
時折ピクリと動く程度でぐったりとする蝙蝠を掬うように持ち上げると、
そっとその小さな頭を撫で頬をすり寄せる。
すぐに無数の蝙蝠が現れると黒い渦を作り出し小さな掌から傷ついた蝙蝠をどこか…
魔王の元へと送り出した。
 
   
 
 一瞬にしてハムスターからグレムリンへと姿を変えたキスケは、
地面に落ちた蝙蝠を大事そうに拾うと優しくなで、頬を摺り寄せた。
一瞬放った殺気に身構えた一行もその優しげな様子に一瞬戸惑う。
どこからとも無く無数の蝙蝠が現れると黒い渦を作り出した。
 その様子にチャーリーがあることを思いつき、
渦に消える蝙蝠を阻止しようと刀を構え、前に飛び出す。
一足先に消えた蝙蝠にキスケが振り向き、
嫌悪感をあらわに唸り懐に入り込みグレムリンの姿のまま蹴りだした。
 蝙蝠に気を取られていたチャーリーはとっさにガードするが、
投げつけられた木の実が顔を打った。
次々発芽し、襲い掛かる植物を払いすてると雷撃魔法を放つ。
すんでの所でかわしたキスケは、ハムスターになるとキャシーの足元にもぐりこみ、
一瞬で変身するとその足を蹴り飛ばした。
キスケの思惑通り倒れるキャシーは足を押さえ、すぐには立てない。
 再びハムスターとなったキスケはネティベルの傍へと移動する。
丁度エリーとの直線状にネティベルがいるよう移動し、一瞬でグレムリンに変わる。
 すぐにエリーが反応するがネティベルが重なり一瞬戸惑ってしまった。
ネティベルも呪文を唱える余裕がなく、体をそらし何とか攻撃をかわす。
「っ!!」
 その動きを予測していた…そうなる様誘導していたキスケのフェイントが決まり、
狙い済ましたスバルナの攻撃がネティベルへと突き刺さる。
 
「少し浅かったか…。だが…遅い。」
 吹き飛ばされていたスバルナの突然の襲撃に、
ベルフェゴが斬激を出すがやすやすとかわされ代わりに凍える息が吹きぬける。
 周囲を凍らせ現れたのは自分の氷で血を止めたムファスカー。
先ほどとは比べ物にならないほどの冷気を放ち、怒りに燃え上がらせる瞳はまさに魔獣。
その様子にスバルナはまずいな、と上空からその様子を見る。
 
 
 獅子一族は現在もっとも獣人に近い固定種族。
一夫多妻制で雌の数が多く、獣人化がかなり進んでいる。
雄は基本的に一家に大事がない限りは温厚で、
中でもムファスカーは嫁達にいじられ、部下にいじられ、同僚にいじられ…。
だが、その温厚さゆえに一度怒り出すとバーサーカーと化す。
中途半端な攻撃では激昂させ逆効果だ。
 
 雄雄しい雄叫びに辺りがあっという間に凍り付き、
空気中の水分が凍るダイアモンドダストが発生する。
グレムリンはスバルナの攻撃でダメージを受けたネティベルの背後に現れると爪を起こし、その背に襲い掛かる。
「ネティベル!やつの狙いは白魔道師だ!」
 間に飛び込むエリーは短剣で受け止め、何とか押し返すとネティベルへ警告する。
「大分戦いなれしているのね…。チャーリーどうしたの?」
 壁を作り出すネティベルは眉をひそめるチャーリーに声をかけた。
「さっきのが大叔父さんなら…。青灰色のハムスター…大叔父さんと一緒にいたキスケ?」
 呟くように言うチャーリーの言葉にベルフェゴはまじまじとグレムリンを見る。
 
 そういえば聞いたことがある。
大叔父さんといつも一緒にいたというハムスター。
魔王戦後は一緒についていったらしく、祖父達は特に話題に出していなかった。
 とっくに寿命がきていると考え、まさか魔獣になっているとは思いもよらなかった。
そう考えたところでチャーリーは首を振った。
いつも一緒にいたならば、一緒に魔物になっているという可能性もあった。
 
 
「イマゴロカ。ニンゲン。アノ人を弟ダトイッテイタクセニ、
 そーずまんもヤッパリ理解してナかっタカ。」
 鼻先で笑うキスケは飛び上がるとポリッターの出す岩を避けながら飛ぶスバルナに飛び乗り、ハムスターとなってその体を完全に隠した。