高く舞い上がると鳥人へと姿を変えながら急降下し、
チャーリーの剣を鉤爪で抑える。
回し蹴りを繰り出すスバルナをよけるチャーリーに今度は腕の翼が襲い掛かる。
 いつの間にか、ポリッター・ジュリアン・ジミーコンビはムファスカーを相手にし、
チャーリーとベルフェゴの兄弟、エリーはスバルナを相手にしていた。
仲間の回復のためにもあまり無駄に魔法が使えないネティベルと、
足を傷めて転倒したキャシーはまだ戦力に戻ることが出来ない。
 キャシーを回復させるネティベルだが、何かが目の前を横切り爪で手を切りつけられる。
 すぐさま姿をくらませるキスケに結界を張るが何せ相手は小さな生き物。
それも地面を掘ることの出来るハムスターだ。
いくらなんでも最上級の結界でも張らなければ地中までカバーすることが出来ない。
 
 案の定、地面から顔を出したのは小さなハムスター。
すぐさま結界を解こうとするがムファスカーの冷気が結界に当たり、
キャシーのためにも結界を張っていなければ危険だ。
 
 その様子に気が付いたエリーだったが、
格闘を使いこなすスバルナを相手にしていて手が離せない。
それにネティベルが張った結界が邪魔で助けに行くことも出来ない。
 ムファスカーとスバルナは援護するかのように攻撃を時折結界に向けるため、
結界を解くことが難しくなっている。
 スバルナの爪を避けて目を放したエリーが再び目を向けると、
結界の中でキャシーが倒れる瞬間であった。
 
 
 地面から出てきたキスケは詠唱をせずに出される火の玉を避け、
グレムリンになると蹴り飛ばす。
結界の壁まで弾き飛ばされるネティベルは体を打ちつけ、
回復呪文を唱えようとしたところに体当たりをくらいその場に倒れた。
 足を怪我しているキャシーはあっという間の出来事に驚き、
ボーガンを大きく振るがその動きを読んでいたキスケの蹴りが首に当たり、
よろめくとすかさず支えようとした腕を蹴り飛ばし、その場に倒す。
 
 
 とりあえず、と二人を倒したキスケは地面にもぐると別の場所に顔を出し、
4軍のイーナに念話を送る。
魔獣の言葉がわかるウサギの獣人である彼女はキスケとは旧知の仲だ。
【キスケ様、どこかお怪我なさいました?】
 イーナ、と呼んだ声にこたえるイーナの声に久々の念話が使えたことに、
ほっとしたキスケは怪我じゃないと答える。
念話をしてしまったはものの、なんて聞けばいいのか、と考え言いよどんだ。
【ちゅっち…ちゅ………ちゅちちっちゅっちいちゅう?】
【ジキタリス様は先ほど防御力0の状態で何か強い魔法を受けたようで…。
 魔王様がお連れして今ドゥリーミー様が見ております。
 …キスケ様がご心配されていたとお伝えしましょうか?】
 キスケの言葉に明るい声で返事をするイーナは最後にからかうように付け足し、
キスケは顔を赤らめる。
【ちゅっちっち!アンナへんたいシラナイ!イーナ、ばか!】
【あらら。そうでしたか。どうも聞き間違えてしまいました。申し訳ございません。】
 見えるはずもないが、身振り手振りでキスケは
イングリッシュ語といつもの言葉が混ざりながら怒った様に抗議した。
イーナはくすくすと微笑ましそうに笑うとこちらも見えないながらに頭を下げる。
あんな変態!と呟くキスケは念話をやめ、ぶんぶんと頭を振った。
 
 ムファスカーがジミーの呼び出す召喚獣に負傷し、離脱するとキスケは砂時計を見上げ、
先ほどのイーナの言葉を思い出す。
ここ数年、かなり勇者の紋を酷使してしまったがために
全体的な治癒時間が伸びている上のこの負傷。
 出来る限りここで痛みつけて、ノーブリーにさらに痛みつけてもらって…
あとは魔王様が余計なことさえしなければ…体力だけは最善期近くまで回復してくれるはず。
 絶対必要な白魔道師と…できればあのアサシンの女と…
あと…戦闘力のありそうなのは…メイド服の怪力ぐらいのはず。
白魔道師は3・4日は休むぐらいの攻撃はした。
 アサシンはちょっと厳しい。
メイド服は大技が連発できないらしい。
あの兄弟にいたっては正直よくわからない。  其処まで人数を数え、多すぎでしょう、と突っ込みを入れる。
自分を入れたって6人と一匹のメンバー。
この一行は9人と雑巾一枚。
いや、雑巾は雑巾で役に立つからあれは唯の塵!埃!ハウスダスト!
ノーブリーに抹消してもらいたい!
というか、“あの人”との約束がなきゃとっくに肉片にしてヒマワリの肥やしにしてやりたい!
 
 グレムリンの鋭い爪を利用し、クルミやドングリに複雑な紋様を描く。
スバルナの攻撃と対抗する一行の攻撃の音が聞こえるがそんなの構わない。
地面を掘りながら紋様を描いた木の実を落とし、次の紋様を考える。
最初の穴にたどり着き、繋がると地上に顔を出した。
若干スバルナがぼろぼろになってきたがまぁまだ大丈夫だろう。
ムファスカーのように炎の召喚獣により体毛…というか体の氷が溶かされ、
みっともない姿にされて離脱するのは見ていて可哀想だったが…。
 
 魔力を種に与え、いつでも発動できるように準備をすると、
今度こそ土から体を出し、ぶるぶると毛を綺麗にする。
【キスケ様、やっと見つけましたよ…。あぁ…ムファスカの馬鹿…
 7人も私に押し付けて…。今度毛を毟ってやる…。
 申し訳ございませんが体力の限界が…。】
 上空に退避し、次の攻撃を伺うスバルナはキスケの姿を見るなり念話を送った。
ふらふらとしているスバルナにこりゃだめだ、と大きく息を吐いた。
そこでん?とキスケは首をかしげた。
全身の毛が溶かされたんだから毟れないんじゃ…と冷静に考えるが正直どーでもいい。
適当に水かけて凍らせればとりあえず生えるし。