地面が大きな円を描き、いくつもの小さな円が描かれた紋様が現れ発光すると、
その小さな円から何か…木の芽が飛び出し急速に高さと太さをましていく。
「なんだこの魔法!?」
 なんとか振動を耐えるエリーは足元の紋様に気が付き、目を見張った。
こんな魔法聞いたことがない。
模様を描いて発動させる魔法なんて…。
 ジミーも同様に驚くが、足元の紋様になにか…意識の奥底から
“知っている”という確信が湧いてきていた。
それはあのスフィンクス戦で見たスピリットグリフのような、
精霊の記憶とも言うべき根本的などこかの記憶。
 未だアイアンとの会話ができないため、誰にも言うことが出来ずジミーは唇を噛む。
その間にも木は大きくなり、一行を取り囲むと一度動きを止め、静かにたたずんだ。
 
 
 一体なんだ、と周囲に気を配る一行に木が震えると同時に四方八方から枝が伸びはじめた。
 勢いよく伸びる枝の先端は尖り、打ち払うジュリアンの肩に突き刺さる。
一度折ればそのからは伸びず、脇から数を増やした枝が現れ、きりがない。
「先端を動けないようにして折るな!唯魔力を与えられた木ならそれで動きは止まるはずだ!」
 短剣で切りつけながら先端を凍らせるエリーはそう叫び、
ジミーとアイアンの加勢に入る。
 召喚獣を呼び出すまでほとんど戦力というものがない二人は急いで呼び出すが、
魔力の消耗が影響し呼び出すまでの時間が長くなっていた。
 
 チャーリーの雷撃により先端がこげて燃える木はだんだんと勢いを弱め、
次第に周囲の木も活動を弱めていく。
 ようやく木の動きが止まり、大きく息を吸うエリーはわずかに守りきれず
負傷した召喚術コンビを目に入れ、すまないと呟いた。
 ジュリアンも最初のダメージ後、エリーの忠告どおり戦ったが
それでも素手で戦う彼女の手は棘が刺さり、かなり痛そうなことになっている。
 
「フーん…。ナカナカ生き残ッタ。まぁイイヤ。コレでカナリダメージでキタ。」
 木の陰から姿を現したグレムリンはやれやれ、と一行を見つめとりあえず目標達成、と呟く。
 ごそごそとどっからともなく、琥珀色の宝玉を取り出すと一行に投げて渡す。
エリーが受け止め、宝玉から目を離すとすでにキスケの姿はなく、
木の隙間から見える広大な草原の向こうにうっすらと扉が見えた。
「あそこまで行くのか…。それは…ごめんだな。」
 肩で息をするエリーはキャシーの巨体とその他倒れているメンバーに大きく息を吐き、
ふらりとその場に座り込んだ。
 ぎりぎりの体力で生き残ったジュリアンは手に刺さる棘に眉を寄せ、
魔力を大量に消費したチャーリーもへたりと座る。
 ポリッターとベルフェゴにいたっては木の外側にいたが、
動けないでいるところをキスケにやられてしまったらしく倒れているのがわずかに見えた。
「そうだ…。もしかしたら…コレが使えるかもしれないですね…。」
 チャーリーがかばんから取り出したのは洞窟脱出用の携帯魔法陣。
洞窟ではないため、効果は出ないかと期待していなかったが、試しにと床に敷いてみる。
 これが使えればかなり移動が短縮できる。
と、あんまり期待していないエリーだったが、魔法陣が淡く輝いたことでまさかの使用可能に大きく息を吐いた。