「2軍の小隊長とやら…何の用があってきたんだ。」
 警戒したままのエリーだが、セヤは気にしていなかのように懐から黒い輪を取り出し、手近なテーブルにそれを置く。
「3日後から一週間、この国では魔物と人間を交えたお祭りを行います。
 その際、貴方達を見失う可能性が高くなりますので外出の際はこの腕輪を装着の上、
 宿から出てください。これを装着しなければ宿からは出られません。
 また、魔王城への入城も一切出来ませんので早期決着を行いたければ
 3日間の間にお越しください。」
 詳細はこの巻物に、と置くセヤは淡々と一行に伝えると早々と立ち去ろうと背を向けた。
 
「まっ待ってください!どういうことなんですか?」
 慌てて呼び止めるチャーリーに振り向くセヤは口元に手を当て何かしら?と首をかしげる。
「貴方は一体…。お祭りって…」
「10年に一度のお祭りなのよ。そこでは四天王様方も参加していらっしゃる。
 勇者一行が戦闘しないよう一部の区域には立ち入り出来ないようにしていますの。
 街中で戦闘にでもなったら大変ですし。その際この町での殺しは通常禁止ですが、
 例外もありますので。」
 後処理が……という。
例外、と聞いた一行はぞわりと背筋を振るわせる。
暗殺業を行っているエリーはセヤが入る前から漂う、
同業…それ以上の気配にセヤの本来の役割を感じ取った。
 
「本来なら出ないでいただいた方がいいのですが…せっかくのお祭りですし。
 ね?閉じ込めてはいけないかしら?」
「某はファザーン様に進言したが、万が一問題を起こすようならば
 その際は消せばいいとのご返答だ。」
 振り向き、扉の向こうに確認を取る彼女の声に若い男の声が答える。
まったく気配がしなかったことに驚くベルフェゴだったが、
声が聞こえるもののまだ気配を感じ取ることが出来ないことに驚愕する。
「人間、注意事項は其処に書いてある。
 万が一読んでいないがために犯した失敗などがあっても例外は認めない。
 某らのルール通り消えてもらう。」
 静かな感情のない声のまま男は淡々と答え、扉の影から剣を差し出した。
用は終わっただろうという男にセヤはくすりと笑うと一行に背を向け剣を受け取る。
「そうね。それでは失礼します。さて…私今日非番で楽しみにしていた分…
 後で返してね。」
『…!!!………。…。』
 数枚の羽を残し、烏に姿を変えるセヤに男は思わずといった様子で咳き込み、
烏になるとそのまま飛び去っていった。
 
 
 ぽかんとする一行だったが、ポリッターは慌てたように結界を探る。
元々亭主が張ったらしい人の出入りがわかる結界は入った時からあったが、
それを取り囲むように別の結界が感じ取れた。
それも強力で特殊な結界で、物の特定が出来ないが
机にある黒い腕輪と同じような魔力が感じ取れる。
 少し探ってみれば町のあちらこちらから似たような魔力を感じ、
そういうことかと納得した。
 腕輪を使わなければ結界から出られず、装着していれば通れない場所がある。
腕輪もこの結界内でなければ外せず、結界外では外せない。
「厄介な時にきてしまったようだな…。」
 人数分ある腕輪を確かめ、ついでに自分の荷物を確かめる。
町に出ないでいるわけにはいかなそうだ。
とりあえず、と部屋を見回しジュリアンが棘と格闘するのを手伝いに行った。
チャーリーも疲れきった様子のベルフェゴと、魔力を使い果たしたポリッターの様子を確かめに行き、軽く咳き込むジミーに目をむける。
 あの精霊の王が行っていたことが正しければまたアイアンと会話が出来るはず。