一通り手当てが終わるころ、眠ったままのネティベルの傍には心配げなポリッターが張り付き、
今まで見たことのない師匠の姿にもっと自分がしっかりしていれば、と大きく息を吐いていた。
 一行の中でも重要な白魔道師であるネティベルが徹底的に狙われたことに対策しなくしないと、
とチャーリーに話しかけようとするエリーの耳がわずかな音を拾う。
 
「ネティベル、気が付いたのか?」
 眉を寄せるエリーは寝室から聞こえたわずかな呻き声に気が付き、すぐに傍へと向かった。
「ネティベルさん、大丈夫ですか?今回復魔法を… 春風の光 木漏れ日の光 
 さらさら流れ、旅人の傷を癒す 補助系光魔法 光風」
 薄く目を開くネティベルにチャーリーは手をかざすと回復魔法を唱える。
光の風がネティベルを包み、体の傷と体力を癒すとネティベルは頭を支えながら体を起こした。
 
 
「何とか勝てたの?」
 ずきずきと痛む頭に眉をしかめ、傍らにいる心配げな弟子の頭を軽く小突く。
師匠が無事であることを確認できたポリッターは良かったとばかりに目を潤ませ、ネティベルにしがみついた。
「せんせぇ〜!!良かった〜!!せんせぇ起きてくれました。」
「ばかねぇ。これぐらいで死なないわよ。ちょっと離れてくれないかしら?」
 良かったとネティベルに顔をうずめ泣き出すポリッターに、
驚いた様子のネティベルは苦笑するといつものような呆れた表情で
軽くポリッターを叩くが、言葉の割には無理に離そうとせず弟子が自分ではなれるのを待っていた。
 
「そうだ…っ…。キャシーは大丈夫かしら?」
 倒れる前のことを思い出したネティベルは一緒にいたキャシーがどうなったのか、
と辺りを見回し隣の寝台で寝ていることを確認するとほっと息を吐いた。
「まだ寝ていた方がいい。」
 肩を抑え、横にするエリーにネティベルは素直に従い、まったくと髪をかき上げる。
「チャーリー、ごめんなさいね。白魔道師の私がやられてしまうなんて…。
 回復役の私が回復されるなんて…なってないわ。」
 引っかかっていた髪留めを外すと、まだしがみついている弟子の頭につける。
妙なところにつけられてしまったためか髪が挟まり、
ポリッターはそれを外すため師匠の思惑通り傍を離れた。
 
「そんな…気にしないでください!
 それを言うなら前衛は後衛を守らなくてはいけないのに…力不足ですみません。」
 慌てて首を振るチャーリーはうな垂れ、刀に目を落とす。
今回の戦いでも細かな傷が出来てしまった。
まだ正虎をうまく使えていない、と柄を握る手に力がこもる。
「あの戦いの中現れた蝙蝠…。僕の勝手な憶測なのですが、
 あれは大叔父だったんじゃないかって思うんです。
 もし早く気がついていれば何らかの話が聞けたかもしれないのですが……。」
「あの3軍との関係を考えればその可能性もあるな…。
 しかし、恐らく気がつくのが早かったとしても、あのハムスターが邪魔をしただろう。
 それになんとか捕らえる事ができたとしても、
 最悪この場にいる一行のうち誰か消えることになっただろう。」
 何か、というチャーリーにエリーは首を振り、その考えは懸命ではないという。