どんよりとする空気の中、ヘイラーによって手当てが施されたアイアンは
相方であるジミーに話しかける。
その様子に、目覚める前のことを思い出したチャーリーははっとしたように顔をあげ、口を開いた。
「あ、あの。」
「ねぇねぇ。あさ?ジミーくんなんかはなしてなかった?」
言いかけたところで聞こえたアイアンの声に思わず口を閉じ、
首をかしげる彼女を見る。
そういえばジミーの声が聞こえるということは、
もしかしたらアイアンのみ精霊の言葉がわかるんじゃないか…というのが頭をよぎった。
「―――。――。――。」
「あ〜やっとジミーくんのこえきこえたー。おきてないの?ねごと?」
何かを話すジミーの声がわかったのか、手を叩いて喜ぶアイアンはその言葉に首を更にかしげ、へんなジミーくん、という。
「アイアンさん、何が聞こえたんですか!?」
自分以外にも聞いている人がいたのかと、
思わず詰め寄るチャーリーにアイアンはなんでもないように頷いた。
いぶかしげに見つめるエリー達に、チャーリーは今朝起きた出来事を説明する。
「精霊の王?あの緑髪の女が言っていた……。」
「だけれども、我が君というのはおかしいわね。
精霊は属性の王がいるけれどもその上はいないわ。」
「はい!先生の言うとおり、精霊の王は誰が一番偉いなどがないそうです!」
そもそも亭主らにも気がつかなかった、というエリーは試しに亭主の気配を探るが、
簡単に居場所がわかり困惑する。
ネティベルもまた、闇の精霊が言ったという“我が君”という言葉に眉を寄せ、
弟子に確認を取った。
「えぇっとねぇ。だれのこえかわかんなかったけどねぇ。んと、
わがきみのたのみあらば、このおとこにじゅつをつかってもいいけど、
あさはひざしでねむい。ヴぁゆしるふじゃあやみのちからがおおきすぎて
できないからがまんして。だったかな?」
「要するに我が君の頼みは聞いてメイデンに術を施すけど、
闇の精霊なので朝の日差しはつらいと。
ヴァーユ=シルフ…おそらくは風の精霊王では
闇属性が強くて無理だといっていたから我慢してやって欲しい。
ということか。」
長く話をすると文章の区切りがわからず、わかり難いアイアンの言葉を要約するエリーに、
手当てが終わったジュリアンがさすがです!とエリーの腕にすがる。
「だがポウェルズ、さすがに思い過ごしだろう。やつは仮にも元人間……。
ましてや精霊の言葉なんてよっぽど特殊でない限りわからないはずだ。
あれは動物の言葉ではない。自然の音だ。」
キャシーの具合を見に来たヘイラーは無理だと首を振った。
解読できていればとっくに魔具で量産して売りつけていると。
部屋に残っているかもしれない気配の残滓を探るベルフェゴだが、
時間が経ってしまっていてさすがに感じ取れず、大きく息を吐いた。
時間…?
「そうだ!!!兄ちゃん!時間がないよ!!」
突然の大声にまだ眠っていたキャシーは軽く呻き、慌てて口をつぐむ。
「どうしたんだい?ベルフェゴ?」
一瞬よぎったある可能性を吹き飛ばした弟に、チャーリーはいったいどうしたのだろうかと驚き、振り返った。
「あのハムスター…。魔力が切れて帰ったんじゃない!
僕達が戦闘不能ぎりぎりになるよう仕向けて、大叔父さんの治癒期間を設けたんだ!!
僕達が戦闘不能になると再戦で戦うことになる。
そうするとまた自分をかばいに来てしまうかも知れないから、
だからぎりぎりで……。」
「それと戦闘不能になった際の私達のダメージが半分ほど回復するという
教会の性質を理解している…。祭りの期間中は入城が出来ない。」
「祭りは一週間行い、2軍戦で勝てたとしても休養しなければならない…。」
「そうするとローズさんとの戦闘がどんどん遅くなって蝙蝠でのダメージ・
禁忌魔法でのダメージなどが回復してかなり手ごわく…。
先生!どうすれば…。」
唯でさえ強い伝説の勇者。
ベルフェゴの言葉からキスケの思惑に気がついたエリーと師弟はまずいわね、
と顔を青ざめた。
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