扉へと向かうエリーは背後の視線に気がつき、戸に手をかけながら振り向く。
気付かれないと思っていたのか、背後にいたジュリアンは驚いたように目を丸め、
腕輪の付いた手を合わせる。
 
「ん?ジュリアン。どうかしたか?」
「じゅっジュリア…私もご一緒します!」
 首をかしげるエリーにジュリアンは顔を赤くし、挙手するかのように手を上げ背筋を伸ばした。
「まぁ別にいいが…。」
「なっなんでもないです!早く行くです!」
 いつも変なのが余計に変になったと、内心眉を寄せるエリーの脇をジュリアンが通り抜け、
一体なんだと首をかしげるとそのままジュリアンと共に部屋を立ち去った。
「はは〜ん。」
 何かに気がつくヘイラーは一人満足げに頷くと、いぶかしむベルフェゴには目もくれずアイアンを手招いた。
 そのまま2人で話すある意味異質な光景にますます眉を寄せるベルフェゴだったが、
話し合いのために近くの椅子に腰を下ろした。
 
 
 それぞれ何かしらに腰を落ち着けると反省会を行った。
エリーにはある程度まとまったところで話を渡そうとネティベルも先に始めることに賛成のようだ。
「僕もちゃんと作戦と言うか…いろいろ考えた方がいいかなと思いました。
 今回は回復をしてくれていましたネティベルさんの傍には、
 近接攻撃の出来る人がいなかったのと、
 結界やら全部まかせっきりにしてしまったのが大きな問題点じゃないかって思うんです。」
 そう切り出すチャーリーにネティベルはいいのよ、と首を振る。
実際、身を守りながら仲間をサポートし、適切な魔法を唱えなくてはならない。
それが白魔道師たる自分の役目だとそう感じてはいるのだが、
実戦では思い通りに出来ないことにまだまだね、とため息を吐いた。
 
「陸と空からの攻撃の翻弄されてずいぶん無駄な魔力と気力を消費した…。
 もっと技覚えてくれば良かったなぁ。」
 他の技はまだまだ未熟で完全に習得できてないんだよなぁ、
と呟くベルフェゴにチャーリーは苦笑する。
 そういえばついつい鎌鼬ばかり使って、他の技の鍛錬をしていなかったと。
「実を言うと僕も祖父に教わった鎌鼬が一番使いやすくて他の技、自信ないんですよね。
 ちゃんとオリジナルを勉強すればよかったんですが、うまく形に出来なくて。」
 このままではいけないのはわかっているが、どうにもうまく形に出来ず技になってくれない、
とため息をつくチャーリー。
 その様子にネティベルはまずいわね、と口元に指をあてながら考えるようにうつむいた。
 
「チャーリー君、せめて何かひとつ覚えた方が良いかもしれないわ。
 魔王の前かどこかにあのチューベローズがいるはずよ。彼にその技は通じない。
 それに彼の弟子である2軍の四天王と思われるキルも同様に通じないわ。」
 ネティベルの言葉にチャーリーはさっと顔を青ざめ、苦しげに眉を寄せる。
もともとは旧勇者一行の技。
 自分達とは違い、もっと荒れた時代を生き抜いた一行とではまるで実戦経験が違いすぎる。
 それも自分が今使っている技は至高の勇者と謳われる、
あの銀月の勇者とその片割れである幼馴染の青年…祖父の技。
「大叔父さん……。そう……でしたね。それにあのシィルーズ。
 あの人も鎌鼬を使っていましたし。」
 その時の威力を思い出し背筋を振るわせた。
チャーリーの言葉にベルフェゴも恐怖を思い出し、噛んでいたスルメを思わず落としてしまった。
 怒りに満ちた目とそれと同時に感じた絶望に近い悲しい気配。
気配を読むのはかなり得意だが、どうして自分だけシィルーズの正体を気がついてしまったんだ、と深く落ち込む。
 元は男だって言うのに魔王とデートしていたし……。