そこへ大きなパフェと木苺の飲み物。
それと紅茶が2つ運ばれ、それぞれの前へと並べられた。
 ローズならまだしも、あのでかい上に魔王であるロードクロサイトがパフェか、
とちょっと見たくない光景を思い浮かべ、情報も得られないだろうと紅茶を手に持った。
「あ、ちょっとまって。」
 いざ飲もうとした途端、ローズが待ったをかける。
どういうことかといぶかしむ2人の紅茶へどこから取り出したのか、
2つのスプーンをそれぞれのカップに入れ、一匙琥珀色の液体を掬い取った。
「ちょっとお祭り前で治安が悪くてね。異常ないし、飲んでいいよ。
 この木苺、おいしくない。季節はずれなのにおかしいと思ったけど、
 鮮度は低いし、口当たりが悪い。無理に出さないでよ。」
 唖然とする2人をよそ目に、毒見を終えたローズは自身の木苺ジュースに眉をしかめ、酷評をくだす。
 新しいスプーンでロードクロサイトのパフェを3箇所ほど掬い、
甘味に眉をしかめながらも口に運ぶ。
 
「毒見!?」
 
 驚くジュリアンに眉をしかめるエリー。
彼女の国でもないわけじゃないが、以前そういった役職があり、
歴代の王の食事を毒見していたとか。
 早く食べたそうなロードクロサイトは小さくため息を吐くと、
指を軽く振るい、入り口から出られないよう結界を張った。
「せっかく楽しみにしていたというのに、残念だなぁ。大丈夫か?ローズ。」
 未練がましくパフェをみるロードクロサイトは崩れ倒れかけるローズを支える。
苦悶の表情を浮かべるローズに周辺の客が気がつき、
魔人らは顔を青ざめ、人間たちはその2人に気がついてか一斉に距離をとった。
 
「さすがに紋を酷使しすぎているな。解毒が遅い。」
 元々白い肌をさらに青白くするローズにロードクロサイトは困ったように呟き、
何かを思いついたのかわずかに口元を上げる。
 目をつぶっている本人からしてみれば嫌な予感以外の何者でもないが、
とりあえず気がついてはいない。
 
 
 騒ぎを聞きつけた店員が奥から出てくると、ぐったりと抱えられた青年と、
青髪の男を見比べ、悔しげに地団駄を踏んだ。
「ちくしょう……。魔王が死ねば魔物にびくびくこびへつらわなくてもいいってぇのに!
 こうなりゃ……直接ぶっころしてやる!」
 奇妙なほど高揚とした奇声を上げる男は手に持った長剣を振り上げ、
ロードクロサイトへと襲い掛かる。
『スォルド、こいつと怪しいのは全員2軍に引き渡しておいてくれ。』
 徐々に呼吸が落ち着くローズを見ていたロードクロサイトは男を見るまでもなく、
どこからともなく現れた魔剣士に処理を命じる。
『承知いたしました。2軍に引渡しですが、
 タマモ殿が既に動いて怪しいものを探っております。
 手加減はしないよう、お伝えいたしましょう。』
 黒いバンダナで髪を押さえた細身の男、スォルドは頷くと出られず、
人が溜まっている入り口を示した。
 言葉はまるっきりわからない上に、毒で苦しんでいる青年の姿に驚いていた2人は、
魔剣士が示した方向をみた。
そこには銀色の髪をした狐耳の男性が一人一人の目を覗き込み、
外に出してやるものと、とどまらせるものとに分けている。
 
『ぎもぢわるい。』
 目を開けるローズは、まだ顔色が悪い頭を振り、目元を押さえていた。
「仕方ない。今戦闘を行えば不機嫌な2軍に瞬殺させられるだろうし。
 ドンポス、エリー。チャーリーに伝えておけ。今日から入城禁止だ。
 私が戦う前に完封無きまでに倒されては全然面白くないからな。
 ローズ、帰ってパフェでも食べよう。」
 仕方が無い、といいながらも食べられなかったパフェに相当未練があるのかまだ食べる、
と言う魔王はあまりの出来事に驚く2人に告げる。
 喧騒がなくなると残されているのは捕らえられた人々と、巻き込まれた2人。
そしていつの間にか表れた黒尽くめの魔物と魔王ら2人のみ。
 案の定、パフェと聞いて眉をしかめるローズだったが抵抗する気力も、
支えられていることに顔を赤くしたりする気力すらも無いらしい。
立ち上がるロードクロサイトに抱きかかえられたまま、気持ち悪そうにぐったりともたれた。
 
「なにがあったんです!?」
 急な出来事にジュリアンは頭に手を当て、混乱したように言い、
説明を求めるようにエリーまでもが睨む。
剣を振り上げていた男は魔剣士の男によってぼろぼろにされ、ぐったりと地に伏している。
一応動いてはいるので死んではいないが、起き上がる体力はなくなったようだ。
「いや、単純に……ローズが毒見、劇薬に瀕死、紋の力で解毒……だ。」
 何がなんだか、と言う2人に簡潔に答えるロードクロサイト。
銀髪の狐男は部下を引き連れ立ち去ったが、
黒いバンダナを目深にかぶる男は魔王の指示を待つように後ろに腕を組み、
立っている。