食の危機

 
 

 窓から楽しげな声とにぎやかな喧騒が聞こえ、ベルフェゴは窓から通りを覗いてみる。
結局、ネティベルの治療やらキャシーの治療、
そしてウェハースの治療であんまり部屋から出なかったので忘れていたが、
祭りが開催されたらしい。
「ちょっと私は出ますが、何かありましたら下にいらっしゃる、
 目つきの悪い方に言って下さい。連絡つきますから。」
 戸を開け、横になっている人への朝食を持ってきた亭主は、
出て行きがてら立ち止まるとそう告げた。
 何でも知り合いに会いに行くとかで宿を空けるらしい。
魔界人に関しては一応敵なのでいい印象は持っていない一行でも、
すっかりなれてしまった亭主の言葉に頷いた。
 
 
「せっかくですし……ちょっとみましょうか?」
 闘技場以外何もできないのなら仕方ない、
というジュリアンの提案にエリーは組んでいた腕を解き、それもいいなと腕輪を通す。
「ネティベル、何か欲しいものあるか?」
 最近黙っていてもついて来るジュリアンを今日も引き連れ、
まだ安静にしているネティベルに伺う。
その後ろではむっといたジュリアンがいるがネティベル以外には見えず、
ネティベルは軽く眉を寄せるが雑誌だけ欲しいと答えた。
 部屋を出て行く2人に今度はチャーリーとベルフェゴが立ち上がった。
最近めっきり外出をしなくなっていたチャーリーだが、悩んでいても仕方が無いと気分転換に出るらしい。
 
 食堂に下りると亭主が言っていた人と思われる男が一人、入り口を見られる位置にいた。
 確かに亭主が言っていたとおり目つきの悪い男は、
わずかに見える鈍い銅色の髪の上に黒いバンダナを巻き、
陶芸職人のような服を身にまとい頬杖をついている。
「あの…出かけても……。」
 降りてきてからずっとチャーリーの顔に視線を移す男にまさか勇者である自分は駄目、
と言うことなのだろうかと注意事項と書かれた巻物を思い出した。
だが、特にそうはかかれていなかったような……。
 
「貴様が勇者か。」
 値踏みするように見る男はさっさと行けと言わんばかりに顎で入り口を示した。
無愛想な男に戸惑うが、バンダナから見える耳は紛れも無く魔物。
それにベルフェゴが気配でおじけづいている事から相当な実力を持ったものかと
軽く頭をさげ、外へと出て行った。
「本当にいろいろな魔物がいるんだね…。ベルフェゴ、大丈夫?」
「うん…。ちょっと怖かっただけ。兄ちゃん、どこ見ていく?」
 何の魔物かわからないチャーリーだが、そういえば剣を挿していたような気がする。
通常見ないような魔物が多くてポリッターのような図鑑を持ち歩かなければ特定できそうも無い。
 とりあえず、行動できる範囲内…といってもあまり狭くなく、
町の出入りやら魔物のたまり場のような場所だけ制限されているらしい。
「ねぇ、魔王様みた?」
 突然聞こえた言葉にチャーリーが振り向くと、どうやら人間の女性達の会話らしい。
流石に立ち聞きは気が咎め、立ち去ろうとする。でもちょっと気にはなる。
「兄ちゃんどうしたんだ?」
「いや…。ちょっと…。」
 首をかしげるベルフェゴに言葉を濁し、自分に苦笑すると今度こそ足早に立ち去った。
「さっき、あんまり見かけない若いサキュバスの子と仲良くデートしていたらしいわよ。」
「吸血鬼とサキュバスの組み合わせなんて珍しいわね。あ、そうそう。この間ね。」
 割と大事なシィルーズが見かけない新参者という情報を得ず、
彼女達の会話を聞かないよう立ち去ってしまった兄弟であった。
もっとも、ベルフェゴは正体を知ってはいるが…。