町を歩いていると子供の声が聞こえ、なんとなく目を向けてみる。
まず見えたのは背の高い黒髪の女性。
 とても綺麗な女性だが、優しげな表情の額には2本の白い角が黒髪から覗き、
彼女が人間ではないことを示していた。
 着物を着た女性は何かと話しているのか下を見て笑っている。
視線を下に落とせば赤黒い髪の少年の頭。
 同じような着物に身を包み、楽しげに会話している。
その姿にこの後戦う予定のチャーリー達は平和な親子にあのときの少年?と内心首をかしげた。
 
 確か…大叔父さんを師匠と呼んでいて、蹴り飛ばしたりなんだり…。
向こうも気がついたらしく、顔を上げるとこんにちは、と普通の笑顔で挨拶する。
「こっこんにちは……。えぇっとキル君だよね?」
「えぇ。あの雑巾まるで役に立っていないとのことですが、
 返品不可なので盾にするなり何なりお好きにどうぞ。」
 にっこりと笑うキルに挨拶を返すチャーリーだが、
笑顔で吐かれる言葉に思わず背筋をこわばらせた。
『……?…………。』
 不思議そうな表情の女性はイングリッシウ語でキルに言葉をかけ、
キルも同じようにイングリッシウ語で答える。
どうやらジャポネーゼ語は話せないらしい。
 
「四天王がこんなところにいていいのか?」
 眉を寄せ、警戒するベルフェゴにキルは首をかしげ、そうだと女性を見上げる。
何か話すと女性は頷き、軽く会釈しながらその場を離れた。
「四天王?未成年の僕がですか?2軍のことでした誰も知らないのを知ってます?」
 小ばかにした表情で見上げながらどこか人を見下した目をし、鼻で笑う。
師匠も母親もいない今、鬼としての“素”の表情にあの礼儀正しい?少年が結びつかない。
「まぁ、城で死んでも化けて出ないでくださいね。
 出るとなるとやはり死人を出すわけには行かないと思うので。
 魔剣士一族のようなものであればそんなことはないかと思いますが…。」
 意味ありげに嗤うキルは青い炎を残すと一瞬で姿を消し、母を追っていった。
暗にウェハースは殺す、と言うように聞こえたチャーリーとベルフェゴはぞわりと背筋を振るわせる。
 
 
「あれは鬼一族一の奇才児、ノーブリーじゃないのかぇ?のぅ?」
「見るのは初めてじゃがの。じゃが、あれは紛れも無くそうじゃな。」
 何なんだろうかと顔を見合わせる兄弟にそんな声が聞こえ、声の主を探す。
一瞬銀色の髪が見え、どきりとするチャーリーだったが、
耳の横に突き出た獣耳に人違いかと息を吐いた。
 声の主は釣り眼が特徴的な銀色の髪をした女性と、
金色の耳が見えている少年のような少女のような子供だ。
どちらも和服に身を包み、女性の方は口元を扇子で隠しくすりと笑っていた。
「あの…知り合いですか?」
 少しでも情報を仕入れようと声をかけるチャーリーに女性は気がつき、
なんじゃ?と首をかしげた。
 問いには答えず、チャーリーの目前に迫るとじぃー、と覗き込んでくる。
赤面するチャーリーに女性は感心したように声を上げ、少年を振り返った。
「のぅのぅ。似ておるなぁ。なんじゃ?ノーブリーかぇ?
 妾達の保護者が世話になっておるからの。
 それにしても…シヴァル殿は噂に違えない美人じゃなぁ…。
 そう思わぬか?コヨウ。」
「鬼には珍しいと聞くが余は里からほとんど出ないゆえ、余に聞くでないワカモ。
 それにしてもジャポネーゼ語は面倒だのぅ…。
 勉強のためとはいえ、屋敷に帰りだいぞ。」
 コヨウと呼ばれた金色の耳をした少年は、
何かの発見に喜ぶ女性…ワカモにため息をつき、先へと行こうと引っ張った。
 
「似てるって誰にですか!?」
 まさか魔物に言われるとは思っても見なかったチャーリーは
一体誰に?と首をかしげ、歩き出すワカモへとたずねる。
「それはのぅ…。」
『………!!!!!!!!』
 答えかけるワカモに銀色の狐がどこからとも無くやってくると、
飛び掛り9本の尾をいきり立たせた。
 どこかで見たような狐だが、どうにも思い出せない。
 2人を囲むように9つの炎が現れると苦笑するワカモと共に狐は消えていった。