亭主が戻らないため、夕食をどうしようかと考え始めたベルフェゴは
とりあえず兄を見上げる。
「兄ちゃん。料理作れたっけ?」
「え?まぁ…。ちょっとは…。」
 一行の食事を支えているキャシーはまだ休んでいる。
そのことに気がついたチャーリーは部屋を見回した。
「あの…皆さん料理作れますか?」
 それぞれ思い思いに武器の整備やら薬の点検やらをしていたメンバーは一斉に顔を見合わせる。
 
 
沈黙すること10秒。
 
 
「買って来るか?」
「ごはんっていただきまーすだよね?」
 ぶんぶんと首を振るジミー。
「お湯なら……。」
「ごはんはまだかの?」
「私の作るものはなぜか有害な黒い塊に…なぜだ。計算は間違っていないのだが…。」
「オムライスなら……なんとか……。あ、でもいつもフロアにいました…。」
 金で解決しようとする金銭感覚おかしな人、お湯は料理ではない人、
ぼけているような人、有害物生産機の人、自信なさげな人……。
 
 横になっているネティベルはどうしたものかとため息を吐いた。
一応彼女も一行の食事を支えてはいたが、できることなら魔力が回復するまでもう少し休んでいたい。
 突然何かが壊れる音がし、ネティベルは跳ね起きようとしてベッドにへたり込む。
「何の音だ?一階から聞こえたが…。」
 警戒し、武器を取り出すエリーだが、なにやら廊下から焦げたような
なんともいえない臭いが漂ってくる。
思わず窓を開け、臭いを外に逃がすが、外は外で逃げていく悲鳴が聞こえてくる有様。
 どうしたものかとチャーリーに目配せするエリーは近くで動く気配に短剣を構えた。
 
「こっこの臭いは…」
 そういえば寝ていたウェハースはヘイラーいわくもう完治だそうだ。
珍しく動く彼は慌てたように階下へと降りて行き、あぁ!と声を上げる。
 
 
 慌ててチャーリーが後を追っていくと台所から出てきた目つきの悪い男と、
ウェハースが顔を合わせ、ウェハースが大声を上げていた。
「すっすっすっすっスウォルド!!なっなんでここに…。」
「ゴミくずが人の名前を呼び捨てにするとは…。
 ハナとあの方の命でこの任を賜ったが…報告で聞いたとおりだな。
 一族の面汚しが。」
 元々凄みのある顔立ちの男にはさらに陰が差し込み、苦々しげな声が聞こえる。
律儀なのか反射的なのか、ウェハースと同じジャポネーゼ語で話すが、
目だけは汚物を見たような蔑んだ色を宿していた。
「知り合い…ですか?」
「えぇっと…そのおっおっ弟と言うか…。勘当されたから…じょっ上司?」
 チャーリーの言葉に頷くウェハースだが、男の方は頬を引きつらせ、
顔にさらに陰が差し込んでいく。
 今にもウェハースを殺しかねない雰囲気に思わず冷や汗が流れる。
「出入りする時、気がついたが…あの事件の時控えていた魔物だな?」
 嫌な空気に気がついたエリーはそういえばと男の顔をよく観察する。
どっかで見たと思えば…あの毒見の際、魔王の指示を待って待機していたあの男だ。
「今更か。いかにも私は魔王軍一軍1番隊親衛隊長スォルド。
 甥が世話になったそうだな。」
 長い剣を携えた目つきの悪い男、スォルドは腕を組み睨むように見下ろした。
 
「先ほどの爆発は何ですか!?」
 いつでも魔法を唱えられるよう構えるポリッターはこげた臭いに眉を寄せ、
水魔法の準備をする。
爆発?と首をかしげるスォルドは背後にあるキッチンを振り返り、考え込む。
 その頭を何かが叩き、スォルドは何だと入り口に目を向け思わず目を見開いた。