『…。……。』
『…………。……。』
「フローラ様、ジ…ッ!!いっつううう。」
「あーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
 背の高い女性がくすくすと笑い、ため息をつく青年が苦笑いの亭主に撫でられている。
『…!!!…!あーーーー!もう!!!!
 魔王様に怒られんの確実じゃんか!!!スォルド!!!!』
『申し訳ございません!ジキタリス様。』
 宥められる手を払い、怒鳴りだすちっこい青年……ローズに慌てて跪く男。
「お久しぶり…と言う訳でもないけれど、こんばんは。」
 イングリッシウ語で口早に怒鳴るローズに、
ついには正座する姿に笑うフローラは絶句している一行に目を向けた。
 まさかの出来事に固まる一行を尻目に、ローズが時々ジャポネーゼ語になっているのはそれだけ怒っているらしい。
 
「大叔父さん……。」
「大体、魔剣士一族の男共はあの馬鹿除いて全員料理オンチなんだから!!!
 ったく。ヒュプノス、キッチン借りるよ。」
「いいんですか?冗談で言ったのに…まさか本当にキッチン壊れるなんて。」
 くつくつと笑う亭主と四天王の女性。
カツカツとヒールを鳴らしながら歩くローズはスォルドの耳を掴むと
そのまま引きずるようにキッチンへと消えていった。
「いい加減座ったらどう?大丈夫よ。
 私はもう戦闘終わったし、ローズは友達の家で死人は出さないわ。
 大体、魔王様に無断で出てきたから後で怒られると思うけど……
 まぁ私には関係ないから笑ってみているけれどもね。」
 笑うフローラにようやくジュリアンが動き出す。
そういえばこの小娘に負けたんだったわ、とまじまじとみるが、フローラには特に敵意はない。
 
 
 恐る恐る座る一行に眼を向け、あら?と首をかしげた。
「賢者と、射手と………あらウェハース。まだ2軍に殺されてないのね。
 1軍、2軍の主力部隊が肥やしにしてやるって殺気立っていたけど……。
 ちゃんと抑えられているのねぇ。」
 人数が足りないことに気がついたらしいが、隅っこの方に座るウェハースに眼を留めた。
 落ち着こうと水を飲んでいたジュリアン、エリー、チャーリーは
フローラの言葉に思わず咽こみ、首をかしげる当人に眼を移す。
 なんとなく、そこから見える窓に目を映すとあぁなるほどと納得した。
今まで気がつかなかったが、桃色の毛並みをした犬、大きな烏、毛むくじゃらな大男、
とまぁバリエーション豊かな魔物が、せめて視線でのろいをかけてやる、
といった表情で睨みつけていた。
 見ているうちに桃色の犬だけは2本尻尾のシャムネコに飛び掛られ、
慌てた様子で逃げていき、空いた場所に別の魔物が現れる。
『ローズ、貴方のところの軍が来ているみたいだけど、放っておいていいのかしら?』
『まったくもう……。』
 フローラが奥にいるローズに声をかけるとため息と共に答える声が聞こえた。
イングリッシウ語は唯一、ウェハースにしかわからないはずだが翻訳をするのを思いつかず。結果、心置きなく会話する3人。
 
 馬のいななきが聞こえ、キッチンに眼を向けたチャーリーは思わず目を見張った。
「ちょっと黙らせてきて。煩い。」
 キッチンから飛び出てきた白く輝く獣…天馬は首を緩く振り、召喚主の声に羽を広げた。
外へと駆け出すと慌てて逃げ出す魔物達に襲い掛かる。