ひとしきり追い払ったのか、天馬は軽やかな足取りで戻ると
唖然とする一行を尻目にキッチンへと戻っていった。
「エウカリス、ありがとう。今手が離せないから後で撫でてあ…ぶべっ!!!
 わかった!わかったからグリグリするのやめて!
 あたたたたた…。はいはい。野卑  偉い偉…痛っ!ごめんごめん!!」
 トントンと料理する音に馬のいななきが混じり、
上の空で答えるローズにどすっと重量のある音が聞こえる。
 痛がるローズだが、また適当に答えようとして再び重量感のある音と何かが倒れる音が聞こえた。
 
「情けないわねぇ。何じゃれているの?
 そろそろ魔王様起きる時間だから強制送還来ちゃうわよ。」
「わかってるよ!!!
 スォルド、絶対余分なものを入れないでそれだけ入れてかき混ぜて。
 それ以外入れたらぶっ殺すからね!!
 その右手に持っている木苺は入れない!
 左手のキュウリも入れない!僕が切ったのだけ!!
 っていうかその木苺は僕の!!」
「はっはい!!」
 ジャポネーゼ語で話すフローラにつられたのか、
返事を返すローズだがキッチンでは何が起きていることやら…。
 それにしてもスォルドというあの魔剣士は料理ができるとか以前の問題のような気がする。
 
 
「あの…何かお手伝いしましょうか?」
 今後戦う相手であるというのはわかっているのだが、一応大叔父。
小さい頃の子供達みんなの憧れだった銀月の勇者。
 相変わらずというか、正体がばれてからはあんまり会話の無いローズはチャーリーを無視する。野卑  
 
「煩いわね…何が…。何この状況。」
「あぁあ!!あのときの幻術使いの人!!」
「何だ騒々しい…。あぁ、淫魔か。」
「ご飯はまだかのぅ。」
 キャシーに抱えられたネティベルはフローラがいること、亭主が苦笑いしているのを視野に入れ、
ギャーギャーと聞こえるキッチンのローズと聞き覚えの無い男の声を耳に入れる。
 まだ具合が悪いのかしら、と額に手を置くネティベルはエリーに説明を求めるよう眼を向けた。
「一番知りたいのはこっちだ。」
 腹が減っては戦はできぬ、とばかりにため息をつくエリーはまったくやる気が無い。
と言うより、やる気が沸かない。
 ようやく褒められて満足したのか、光とともに光の馬は消えていったらしい。
パタパタと小さな音が聞こえ、フローラは天井にちらりと眼を向けた。
一行の関心は一先ず自分とキッチンに向いているらしく、蝙蝠に気がついてはいないらしい。
 睨むような視線が降り注ぐが、知らん顔を通すことにした。
 自宅療養中にもかかわらず、抜け出しては一日ガーデニング・稽古・訓練…
と落ち着かないローズは現在ケアロスらの意見もあり、城で軟禁もとい療養中の身だ。
 偶然具合を尋ねに来たフローラは、じっとしているのが嫌なローズと共に抜け出して買い物に来たのだが……。