「それにしても人数多いわねぇ……。よくこの人数でここまできたわね。
 普通一人ぐらい死んでてもおかしくないんじゃないの?
 人間って脆いじゃない。」
 研究者の女はともかく、と眼を向けるフローラはさらりと口にする。
「一応勇者一行だし、加護が受けられるし…。」
 だからじゃないの?と言うジュリアンはエリーに同意を求め、
エリーはネティベルと視線を交わわせた。
 そんなもんかしら、とあいまいに答えるネティベルだが実際、
加護のおかげで戦闘不能になると教会に送られるのだからそうなのだろう。
「兄ちゃん、この匂いカレー?」
 微妙な空気の中、漂ってきた匂いにいち早く反応したベルフェゴは小さくお腹を鳴らした。
 あの赤毛の正体を知っているし、なにより短い間だけ稽古をつけてもらった自分としては、
戦闘以外で大叔父に警戒することは無い。
 毒とかの心配は特に無い。
 
 
「いい匂い。割とまじめに夕食作ってくれているんですね。」
 時折イングリッシウ語で怒る声が聞こえるが一応ちゃんと作っているらしい。
「この匂い……すごく懐かしいような。」
 うーんというチャーリーとベルフェゴ。なんとなく答えが出ている気もするのだが、
 考えるより先に亭主が呼ばれ、キッチンへと消えていった。
 
「あ!僕も運びますよ!」
 食器の音に気が付き、慌てて立ち上がるチャーリーだが、
亭主と共に出てきた不機嫌そうなローズに睨まれ立ちすくむ。
「さっきから煩い。スォルド、本当にもう創作料理はやめ……あ。」
 煩わしそうなローズは手に持ったカレーを適当に置き、不意に天井を見上げた。
「はい。ご飯ありがとうね。私はこれ食べてから帰るから…強制送還ばいばーい。」
 苦笑いでごまかそうとするローズだったが、無数の蝙蝠に囲まれ消える。
残されたフローラは窓から飛び出していく蝙蝠に手を振ると、
何事も無かったように夕食をとり始めた。
「あら。どうして料理なんて作れるのかしら?今度本格的に教えてもらおうかしら?」
 運ばれてきた庶民的な料理も料理だが、あの無数の蝙蝠。
もうなにがなんだかわけがわからない。
とりあえずフローラが食べても平気なようなのでおずおずと食べ始める。
「なぜあの木の実やら葉やらからこのような料理が…。」
 一通り作る工程を見ていたスォルドは理解できないと首を振り、
四天王長自らの手料理に滅多にない機会としっかり味わう。
いつかこれを自分で作れるようにと。
分量はもう忘れた。
 
 
「え!?混ぜ粉じゃないの!?!」
「風味が落ちるとかで使わないそうですよ。
 あと、覚えた時はそんなもの無かったし、高かったということで……。」
 一行の料理担当、キャシーは驚きの声を上げ亭主が微笑みながら答える。
そういえば昔は人間で、山奥のフレッシュミント村出身だったと今更ながら思い返した。
ということは…
「おばあちゃんの作るカレーと同じ味だ!!」
「だろうな。」
 懐かしい匂いの正体に気が付くベルフェゴにエリーは頷く。
聞けば10歳離れた兄妹。
おまけにあの家の風貌からして農家だろう。
 家の手伝いをして忙しい両親に代わって料理を作っていただろうし、
そばで見ていた妹が何度も試しながら兄の料理を真似した可能性だってある。
 妹に合わせて作っただろうから幼い妹は喜び……。
たしかあのユーチャリスとは記憶を消したことで縁を切ったのではないのか。
そう考えるエリーだが、人間そう簡単に心変わりはしない、
いやあれはもう人間じゃ…と矛盾の多い行動に、これから戦う相手があれかとため息を吐いた。