2軍領域 慈悲の屋敷(前庭

 
 


 お祭りのにぎやかな空気が薄れ元の町に戻る中、
ポリッターは今にも降りだしそうな空を見上げた。
できれば降りださないで欲しい。
「今度の2軍は恐らく奇襲などを得意とする分野だろう。
 幻術、魔獣…それぞれに特化している軍だった。
 残るは諜報、暗殺、主力、魔王の親衛隊。
 私の考えだが、諜報と暗殺はあの烏をみるからに2軍だ。
 だからそれに対して策を練ったほうがいい。」
 お祭り中、何度も作戦を考え、エリーの推理を前提に練って来た。
一応主力がいた場合も考えるが、キルやあのセヤという烏天狗といた男の烏。
気配を完全に消すなどの行動が隠密行動には持ってこいだ。
なら、奇襲などのほうに眼を向けていた方が無難。
 
 
 城に来ると再び門は勝手に開き、
前回紫色の宝石を置いた台座の隣に空の台座が現れていた。
そこへ琥珀色の宝石をはめ込むと次の魔法陣が現れる。
互いに頷きあい、魔法陣へと進む。
 光が消えると目の前には大きな扉があり、
背後を振り返ればあの樹の檻ともいえるものが見えた。
あそこで戦ったのかと思うと同時に、次の扉が大きな音を立て開いた。
 
 
 
 魔法陣が発動するのを感じ、精神統一のため閉じていた眼をゆっくりと開く。
「ファザーン様、手筈は整っております。」
 跪く銀色の狐。そして烏天狗。
散れ、と命じれば音も無く消えた。
残された少年はばさりと白い羽織を纏い、真新しい短剣を握る。
柄に飾られた銀色の生糸に眼をむけ、懐にしまった。
 あちらこちらに設置した鬼火を通し、水晶に映像が集まる。
魔法が使えないため、鮮明な画像と言うわけにはいかないが、贅沢は言えない。
 初めての対勇者戦だが、師匠に話を聞こうにも度重なる脱走や、
休んでくださいと言うケアロスらの言葉を無視してしまったため、
強制治療中で出てこられない。
 
 こっそり見に来ようとしていたらしいが、魔王が原因でもある師匠の不調。
頭にきたケアロスにより説教された魔王は、
体調がよくなるまで四天王長を見張ることとなったらしい。
それでも抜け出そうとした師匠は速攻で取り押さえられ、膝を丸めて座っていた。
 念話が通じないということは眠っているのだろう。
ということは、眼が覚めなければあの雑巾を…。
後で怒られる分にはなんとかなるだろう。
 ぜひともそのまま爆睡していて欲しいものだ。