さえぎったのはジミーの呼び出した召喚獣だ。
驚いたジミーとアイアンだが、制御ができないなんてことのない中級クラス。
消えてしまった以上真相はわからないが、少なくとも彼女を守る何かがあるらしい。
ベルフェゴはちらりと石像を見るがやはりただの石像。
それ以上でもそれ以外でもない。
「祖父ソーズマン流豪火剣 炎虎、遊牙!」
ベルフェゴの放つ炎を纏った細かな斬撃がセヤのいる樹へと襲い掛かった。
「あら。羽が焦げちゃいますね……。」
蛇腹の剣を大きく振るい、燃える枝を切り落とす。
すかさずキャシーの弓が飛ぶが、風に阻まれ届かない。
「もう!鳥さん当たらない!!」
「鳥じゃなくて烏天狗です。棒が一本多いですよ。」
「烏なんて町じゃ害鳥です!!」
「神社などではヤタガラスを祭る所もありますよ。」
あぁもう!と怒り出すキャシーとジュリアンにセヤはくすくすと笑い、
アイアンに目をとめると優しく微笑んだ。
その視線に気が付いたのは回復に徹しているネティベルだった。
一体何が、とアイアンを見るがジミーの召喚呪文にあわせて踊っていない。
なんとかジミーの力だけで呼び出せて入るが、攻撃する前に消えてしまい安定していない。
「キャシー!後ろ!!」
上空にいる烏天狗に狙いを定めるキャシーの背後に迫るものがあり、
ネティベルはとっさに叫んだ。
「あっアイアンちゃん!?!」
繰り出される攻撃に慌てるキャシーだが、アイアンからの返答はなく、
赤く染まった目だけがらんらんと光る。
普段のアイアンからは想像もつかない攻撃にエリーは驚き、
とにかく押さえ込もうと背後に回った。
どこに消えたのやら烏天狗達は徐々に数を減らし、無数の黒い羽が辺りを舞う。
「クレイジン!何をしている!!っ!」
真後ろから飛び掛るエリーだったが、回し蹴りを受け何なんだと眉を寄せた。
明らかに様子がおかしい。
というか、目が赤い時点でおかしい。
「ふむ。報告にあったとおり、この女は頭こそ残念きわみでござるが
身体能力は上々といったところか。」
拳を握るアイアンがすらすらと言葉を出すことに、
ネティベル達はいろいろな意味で背筋を振るわせた。
ウイルスが完治したらこうなるのだろうかと思うが、想像したくなかったかもしれない。
「一体アイアンさんになにをしたんですか!」
アイアンの体である以上攻撃がし辛いチャーリーは注意深く辺りに気を配るが、上空にセヤ。
背後には石像。
もうこの広場にはそれしかない。
あるいは本殿内からか、と考えるがどうもおかしい気がする。
「さて?あぁ。この女は正真正銘本物だ。
殺せば某は無傷でも、この女はただでは済まされん。
それにしてもなんと破廉恥な格好の女だ。人間は理解できん。」
やれやれと話すアイアンだが、違和感がどうしてもぬぐえない。
鳥肌を抑えるネティベルだが、飛ぶようにやってきたアイアンの攻撃に慌てて杖を前に掲げる。
一応の装備ではあったし、少々乱暴なところもあるが、これでも魔道師。
それもサポートに特化した白魔道師だ。
それほど攻撃力のあるように見えないアイアンの攻撃だが、
馬鹿力なのかかなり重い一撃をくらい軽く弾き飛ばされた。
「先生!!アイアンさんを使って攻撃なんてどうすれば…。」
とっさに攻撃呪文を唱えようとするポリッターだが、中身はどうあれ外見はアイアン。
直ぐに魔力を散らし、慌てて駆け寄った。
「まったくこの馬鹿力!!チャーリー。
確か光魔法には浄化させる攻撃があったはずよ。貴方ならできるわ。」
痺れる腕を軽く振るい、困惑気なチャーリーを見つめる。
魔法大国イギナリデッドの魔道書の中には光魔法についての記述もあった。
使うことの出来ない属性だが、確か軽く目を通した際にあったはずと呪文を思い出す。
「できますけど…でも……。
僕の光魔法は未熟で本来ダメージの出ない人に対しても攻撃してしまうんです。
アイアンさんを攻撃なんて……。」
「このままじゃあアイアンの体にも支障をきたすわ!アイアンを助けるためにも!」
自信がないというチャーリーに思わずネティベルの口調が荒くなる。
ネティベルの言葉にびくりと肩を揺らすチャーリーは、拳を握り大丈夫、
と自分に言い聞かせた。
「美しき聖なる光よ。その美しき光で悪しきものを浄化せよ!上級光魔法 光華!」
白く美しい光がチャーリーの拳から溢れると、
稲妻のようにアイアンへと四方から襲い掛かる。
以前、ローズが闇サイクロプスに使ったものだが、
チャーリーの魔法は若干黄色みを帯びていた。
チャーリーもすぐに気が付くが、発動した魔法をとめることは出来ない。
「きゃ!」
短い悲鳴が聞こえ、光が突き抜けたアイアンはその場に倒れた。
気を失っている彼女だが、光が突き抜けた後には魔法を受けた痕がありダメージがあったことがわかる。
「アイアンさん!」
慌てて駆け寄るチャーリーは回復魔法を唱えるが元々低い体力。
ネティベルの気付け魔法を唱えなければ戦闘には復帰できないようだ。
「ふむ…まぁまぁいい速さと強さの光魔法だ。
だが、本来人間には光魔法は全くの無害。
しかし、電撃魔法か?が混じっていたようにであったが…。
あの方の魔法とは程遠い。
某に手傷も与えられず仲間だけ余計なダメージを与えてしまうとは。」
突然聞こえる男の声はあのセヤと共に来ていたもの。
驚き、振り向く一行の先にはあの石像があった柱。
先ほどの烏天狗らと同じく口元を布で覆い隠し、
和風な装いをした男は細い石柱に一本下駄で器用に立っていた。
ただ、他の烏天狗らと違い両手は人間らと同じく普通の形をしている。
「あの石像……石像なんかじゃなくて本物の魔物だったんだ!」
どうして気配に気が付かなかったんだと悔やむベルフェゴだが、
すぐに以前出会ったときからまるで気配を感じられなかったことを思い出す。
だが、それに対し数日とはいえわずかな気配にも気が付くよう訓練は怠っていなかっただけに悔しい。
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