【キル?】
 確か寝ていたし、そのまま眠っていて欲しいと考えていたため、
とり合えず念話を送ったと言う事実だけ作っておこうと考えていたキルは、
無言なのことに首をかしげる師匠の声に内心舌打ちをする。
 でも今起きているということは今後も起きているということで……
うっかり目的達成をしてしまっていたらどんな叱咤があったことか。
【お休み中申し訳ありません。
 現在副将クラマを撤退させ、回復中なのですがあの召喚術士についての報告が。】
 とりあえず報告を済ませ、起きて脱走しようとする師匠を魔王に通報しておけば
誤報であったとしても、どうにか押さえ込んでくれるはず。
 やれやれとため息を飲み込むキルの言葉にローズは嫌な予感がしたのか、
続けて、と呻く。
【精霊の翅を出し飛びました。】
【風の精霊の?も〜〜せっかく精霊化止めて一段落したと思ったのに。
 いいよ。どうせ力尽きているんだろうし、このまま放っておいて。
 戦闘が終わったら相談しておくからさ。】
 ぶつぶつと文句を言うローズにでは、と念話を切るとすぐさま魔王へと繋げる。
 
【まだ前庭なのにあの一行進んでないなぁ。なるべく死人を出さないようにな。】
 一人でもちゃんと監視していたらしく、念話を送って早々言われ、
キルは意外だなと眉を上げた。
 幼馴染の監視もなく、四天王長の監視…もとい血のつまみ吸いもせず…。
一人でちゃんと仕事を…。
【で、どうしたんだ?ジミーの翅はローズに今、話したんだろうが。】
【え?えぇ……。今どこにいらっしゃいますか?】
 何で知っているのかと眉を寄せるキルは
あの監視する際に使っている部屋じゃないのかと首をかしげた。
【一人であの部屋にいるのはむなしいんで、
 ケアロスらに頼まれてローズを隔離している部屋にいる。
 疲れたらすぐ部屋に戻れるし、小腹が空いたらすぐつまめる。】
 まさに一石二鳥だ、というロードクロサイトにキルは若干痛む頭を軽く振る。
 
    前言撤回。 
 
 一人じゃやっぱり何もしないし、つまみ吸いするし、
監視がなきゃめんどくさがって部屋から出てこない。
 決して師匠や母…その他大勢諸々の前では言わない罵声が頭をよぎるが
念話には出さないよう気を配る。
【師匠がその場にいらっしゃるなら早い話なのですが、
 父、ウェハースと戦う際に平静を保ち通常通りに戦闘を行う予定ではあるのですが……。
 まだ未熟な面もあり少々乱暴になってしまうかもしれません。
 そのために私の戦闘終了条件を早く満たしてしまい、野卑  戦闘時間が短くなる可能性があります。
 師匠…ジキタリス様には十分休息をとっていただきたく思っておりますので、
 できればそのままお休みしていてもらえないかと思いまして。】
【あー。わかった。】
 師匠には出来る限り回復してもらいたいんです、
というキルになんとなく意図がわかったロードクロサイトは
現在の部屋のせいで自分で念話を使えず、割り込めないローズを見た。
 眉を寄せ、弟子の考えているウェハースを完封無きまでに倒したい
と言うのに気が付いたのか、どうにか念話が出来ないものかとキルに送るが
魔王の魔力で封鎖されている部屋には外部からしか繋がらない。
 
 
「ローズ、ケアロスらから聞いたがキルの2軍戦が終わったらとり合えず
 屋敷で休憩してから挑んでくださいとのことだ。
 で、ちょっとこっち向け。」
 キルが終わるまで出られないことにさらに不機嫌な顔になるが、
ロードクロサイトに手招きされしぶしぶ顔を上げた。
 途端、ロードクロサイトの目以外がゆがみ、しまったと慌てて視線を剥がそうと抗う。
 ロードクロサイトの幻術にはまったローズは、青い目を赤く染めその場に昏倒する。
【幻術で強制的に眠らせといた。
 とりあえず、戦闘が終わるまで意識は戻らないから安心しろ。】
 ロードクロサイトのまさかの行動にキルは角が痛む。
そこは眠りの術とかもっと穏便なものがあろうではと突っ込みを入れたいが、
これでよかったんだと自分に必死に言い聞かせた。
 豆腐メンタルの師匠に精神攻撃系である幻術かけた魔王に、
体裁を気にせず鬼の本性ままに怒鳴りたいがぐっと押し殺す。
 
 念話をきり、再び鬼火に目を移すと気絶した召喚術士コンビをどうするかと
悩んでいるところであった。