「兄ちゃん!そいつポリッターじゃない!!」
 目を開けたベルフェゴの言葉に一行はさらに困惑する。
カシャンという音に振り向けば、ネティベルの隣には一枚の鏡が落ちており、
一人しかいない。
「やはり気配は似せる事はできても完全にコピーできないねぇ。
 魔力の癖、性格、生い立ち、レベル…様々合わさっての気配だからのぅ。」
 ニヤリと嗤うポリッターが煙に包まれ、
銀色の髪をした獣耳の男が口元に扇子を当て嬉しそうに尾を揺らしながら立っていた。
「あの時町で見た…。」
 祭中見た狐の女性を思い出すチャーリーとベルフェゴだが、
目の前の男はくすくすと笑うのみ。
「あれは妾の身内じゃ。さてさて。
 妾は2軍副将、二番隊隊長白銀の影ハッコン=タマモ。
 といっても妾はあまり戦闘向きじゃなくてのぅ…。
 はて…妾は諜報専門ゆえ…ん〜〜。」
 くすくすと笑うタマモは9本の尾を揺らすと足にくくりつけた鈴を小さく鳴らした。
その音にあの煙の中で聞いた音、と思い出すチャーリーは妖艶に微笑むタマモに警戒する。
 
 
「そうじゃそうじゃ。せっかくじゃから…あれを試してみるかのぅ…。」
 扇子を閉じ、微笑むタマモは小さく鈴を鳴らす。
だが、その音はなぜかすぐには聞こえない。
眉を寄せるエリーだが、はっと目を見開いた。
「皆耳を…っく!!!」
 急いで警告するエリーだが、鈴の音とは思えないほど重々しい音が耳に届き、
思わず片膝をつく。
 同じように耳にしてしまったジュリアンもふらつき、
何とか踏みとどまるもまともに立っているのがやっとの状況。
 
 今度は腰帯についた大きめの鈴を手に取り、手をふるう。
今度は耳をふさいだものの、衝撃波が一行に襲い掛かり弾き飛ばした。
「音の攻撃なんて…」
 じんじんと響く耳にネティベルは回復魔法を唱えようとするが、
ひどい耳鳴りに自分が正しく発音できているか分からない。
 
 ふと、偽のポリッターだということは本物はどこに?とあたりを見回した。
いつ入れ替わったのか。
 もしかしたら煙の時に入れ替わったのではないかと考えるが、
もっと前に変わっていたような気もする。
 それにしてもモクリアには魔物は入れないはず。
どこからモクリア国民の上層部とか賢者しか知らない内情を知ったのだろうか。
「おぬしの弟子ならクラマの羽を受けて倒れておったのを、
 妾の部下らが隠して妾と入れ替わったのじゃ。
 クラマもずいぶん協力してくれたのでのぅ。
 誰も気がつかぬとは可哀そうな童じゃなぁ。」
 くすくすと笑うタマモは9本の尾を立ち上げる。
その毛先に小さな鈴が付いているのに気がついたエリーは短剣を薙いだ。
軽やかな音と共に消えるタマモの、ほんの数本毛を切っただけで肝心の鈴をとることができなかった。
 代わりに細かい音の斬撃をくらい片膝をつく。
「風鎌鼬!」
 チャーリーの繰り出す技に音が弾かれるがタマモは気にした様子もなく、
手にした数本の毛に息を込める。
 小さな子狐の形をした炎が現れるとチャーリーに襲い掛かった。
ベルフェゴが間に入り断ち切ると元の毛に戻り、すぐさまかき消える。
 
「はぁああ!!!!」
 飛び出したジュリアンの拳がタマモの着物をかすめるが、ダメージにつながらない。
「おやおや、女子がはしたない。」
 軽々と舞うタマモはベルフェゴの刀を避けると、
ようやく耳鳴りの治ったネティベルに向かって鈴を鳴らした。
今度は耳をふさぎ、音の攻撃を回避するがこれでは一行の回復がままならない。
 苛立つネティベルだが、一行のレベル不足にもやや焦りを見せた。
前々から懸念していたこととはいえ、これまでの戦いで四天王にきちんとダメージを与えてはいない。
 副将にでさえ満足にダメージを与えていないのだ。
 
 ウェハースのそばにやってきたタマモは振り回すように振り回される剣を避け、
転ぶウェハースをさらに蹴り飛ばす。
「ほんに情けないのぅ。さてさて、妾は特に用がないゆえ帰るとするかの。」
【妾はこれでよいのか?】
 さてどうしたものか、と悩むタマモの念話にキルは答えない。
だが、タマモは満足そうに頷いた。
自分の役目はもう終わったらしい。
ならばイライラが蓄積する前に行かせた方が一行の生存率が高くなるはず。
 
 
 腰に着いた大きめの鈴を手に持つタマモは、
チャーリーの刀をくるりとキツネに姿を変えることで避けた。
口にくわえた鈴を鳴らすがまた音がない。
「響き渡る振動 音の震えを遮るものはなく、全てを貫く 上級風魔法ソニックブーム!」
 ネティベルの唱える風魔法がタマモに向かって放たれ、半ばまで行った頃、
何かが衝突する鋭い音が響いた。
相殺しきれなかった風が一行に向かって吹くが、ダメージになるようなものではない。
 砂埃が消え、エリーの投げた短剣が突き立った場所を見るが狐の姿はどこにも見えなかった。