全体の回復魔法を唱えるネティベルだが、やはりこのまま進んでいいものかと悩んでいた。
大体、このままでは回復薬が底をついてしまう。
「あ!見つけた!!!」
「師…先生!僕の偽物大丈夫でしたか!?」
「おみずおいしかった!」
大きな足音と、元気な声が聞こえ怪我の手当てをしていたネティベルは顔を上げた。
そこには笑顔のキャシーと本物のポリッター。
そしてアイアンとジミーの4人が立っていた。
「ジミー君が目を覚ましたから来たの!ねぇ!
こっちの泉のお水飲むとすっごく体の調子が良くなるの!!」
「その泉、回復の成分があるのかMPも全部回復するんです!!
まるで伝説の全樹の葉みたいです!!」
ダメージはどこへやら元気な声のポリッターとキャシー。
なんだってそんなもの飲むのかしら?と首をかしげたいネティベルだが、興味はある。
というか、そんな便利なものがあるなんて信じられない。
とりあえず回復薬を消費せずに済むのなら、とキャシーたちに案内され、もと来た道を戻った。
古風なジャポン国にある、水で音が鳴る添水があり澄んだ水が溢れ出ている。
柄杓を使い、水を手に移すとネティベルは軽く飲んでみた。
すぐさま体の調子が良くなり、若干残っていた耳鳴りがピタリとやむ。
残りの水を腕の傷に流すとその傷さえも消えていった。
「本当に治るわ…。」
「回復の泉…自由に使ってください。と書いてあるな。」
驚くネティベルに、周囲を調べていたエリーはこれ、と看板をしめす。
いったい何なんだと思うが、思い出したようにチャーリーが声を上げた。
「そういえば……天界に行った際、そのようなお話をプリーストさんに聞いたような…。」
そのあといろいろあったので忘れていた、と焦るチャーリーだがネティベルは仕方ないわね、と納得する。
「チャーリーは確か天界で先代以外の勇者の紋の記録を見ていたのよね。」
「はい。大伯父さんの勇者の紋が記録していたものと比べると、
ほんのわずかな経験値ですが。
天使の方々いわく、僕に移した分は本来紋章が持つ力。
そしてその勇者の紋と魂が完全に一体になった大伯父さんの紋章の力は、
比べる事が出来ないほどらしいです。」
少しでも対抗するためと、経験値を譲り受けたチャーリーは一日遅れで地上に戻ってきた。
戦闘に関わることはしっかり覚えてきたつもりだが、
いまいち回復の泉の情報が少なかった気もする。
実際に回復の泉に気が付き、ちゃんと利用した勇者が少なかったという事実もあったりはするのだが。
「さて…そろそろ気を引き締めていくぞ。」
物陰で帽子を整えていたエリーの言葉に一息ついていた一行は立ち上がり、
屋敷の奥を睨むように見つめる。
この奥に3人目の四天王がいる。それも面識のあるような。
「はっきり言ってこの先のいるあの少年は…
今までのような戦いでは勝てないどころか、
下手すると大けがを負って今後の戦闘に出られなくなるかもしれないわ。」
いいわね、と念を押すネティベルにチャーリをはじめとする少年少女達も頷き、
一歩踏み出した。
周囲を取り囲む鬼火が映す屋敷の光景に目もくれず、静かに座り目を瞑る。
わずかな空気の音さえも拾えるほどの無音な空間で鬼火が一つ揺れ動いた。
その“音”を聞くと、ゆっくりと目を開き立ち上がる。
空間を割くように腕をはらうと鬼火は消え去り、赤い夕暮れの影が徐々に深くなっていった。
屋敷の中は不気味なほど静かで、
ジュリアンはキャシーの重みで鳴る床に一瞬身構えてしまったほどだ。
魔物の姿が見えないものの、いたるところに罠があり、アイアンが6つ、
ジュリアンが2つ、キャシーが転んだ衝撃で一度に3つ。
どれも落とし穴であったり毒矢であったりすることはあったが、
ギリギリ死なない程度のところに飛んでくるのは踏むことを予測してのことだろう。
「んもう!!!このお屋敷お掃除しにくそうです!!こんなに罠があるなんて!」
地団駄を踏むのをこらえるジュリアンはネティベルのもつ解毒剤を飲み、
思いっきり遠くへ投げ飛ばす。
あちこちぶつかりながら飛んでいく小瓶に槍が当たり、
粉砕するが気にしている場合じゃない。
思わず伸ばした腕で、落とし穴にはまりそうだったジュリアンを抱きとめたエリーは不用心にあたりを触らないようにしてジュリアンを離した。
「エリーカッコイイ!!王子様みたい!!」
とっさの行動に雰囲気的に目を輝かせているであろうキャシー。
その言葉にネティベルは吹き出しそうになり、口元を抑える。
まぁ確かに王族だ。
顔を真っ赤にするジュリアンだが、何かの違和感に眉を寄せた。
なんか妙な違和感があった気もする。でも間違いなく偽物ではなくエリーだ。
それだけはものすごく大きな声ででも断言できる。
「何をしている。さっさと行くぞ。」
また癇癪を起こされて罠を発動させられてはかなわない。
悶々とするジュリアンに首をかしげつつ罠を回避するベルフェゴの後を追った。
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