ひときわ目立つ大きな扉が廊下の終焉にあり、キャシーとジュリアンが重々しく扉を開く。
すっかり日が落ちたらしく、外へと続く扉の向こうは赤黒い夕焼けの空が広がっている。
本当にこの部屋はどうなっているのだろう、
とおもうチャーリーだがわずかに吹く風で屋外であることを思い知らせれる。
「遠目から見ても魔王城にこんな敷地があるとは思えない。
おそらく強制的にどこか別の場所とリンクさせているんでしょうね。」
チャーリーと同じことを思うネティベルだが、
幻術ではないことを魔力の気配と漂う空気のにおいに確信する。
暗い山道は緩やかに下り、その両脇を青い炎が灯る灯篭が静かに照らしていた。
「この先…といったところですか。」
腕まくりをするポリッターだが、眼鏡を落としネティベルに頭をたたかれる。
ぞろぞろと通り過ぎ、最後にアイアンが通ると最初の鬼火が揺れ動き消えた。
「「さぁ進め 我らの領地に踏み入りし罪人ども 我らの要の裁きを受けよ」」
消えた炎と同時に響き渡るのは、あの烏天狗と九尾の声。
ぞくりと身を震わせるが先に進むたび灯篭は静かに揺らいで消えていく。
大きな灯篭を最後に大きな広場に出ると一斉に炎が円状にともった。
中央にいるのは黒いローブを着た小さな背中と黒いバンダナの小さな頭。
「よく来ましたね。改めましてようこそ。慈悲の屋敷へ。」
振り向きながら挨拶をするのはあの少年。
バンダナからはみ出る赤黒い短い髪と小さな白い角。
赤みが勝った金色の瞳で一行を見据える。
「キッキル…!?」
驚いたように声を上げるウェハースにキルは何か、と答えるだけ。
「私の名前は四天王2軍軍団長キル=アサシ=ファザーン。
もっともこの名は今日で最後となり、通称名ではなく本名に戻らせていただきますが、
今はこの名で十分でしょう。」
にっこりとほほ笑むキルだが、エリーとネティベルだけはその作り笑いに背筋を震わせた。
「慈悲の屋敷ってどこが慈悲だというのです!?」
ジュリアンの言葉にキルは嗤ったまま首をかしげる。
「わかりませんか?」
「わかんないよ!!どういうことなの!?!」
キャシーの言葉にこれは失礼しました、と小さく嗤う。
すぐに嗤いを収めるとすぅと表情を消した。
「私達の軍は諜報と暗殺。
諜報で罪を暴き、暗殺でそのものを罪から解放してあげるのです。
それも罪に気が付き、苦しむ前に。私達の軍は対象に興味を持ちません。
ただ、解放することによって救えるものには暗殺を行いますが、
罪を否定し隠したものを無の世界に持っていこうとするものに関しては、
徹底的に語っていただきます。
種族ごとに死ぬ限界を調べながら、情報をかたっていただく。
もちろん早く話せば早く楽にしてあげます。
暗殺では速やかに痛みを与えずに。
聞き出す際はじっくり慌てず逃がさず殺さず。それが2軍の役目。」
口角をわずかに上げ、自軍の話をするキルにアイアン以外はぞくりと背筋を震わせた。
ウェハースに至ってはまさかの自分の子供が元上司だったことに衝撃を受け、唖然としている。
「さて…。今現在師匠には眠っていただいていますので、
これより次期鬼の当主として、誇り高きま剣士一族の一端として、
そして元上司として…魔剣士一族の恥ウッド=ノティング=ウェハース。
貴様に下された追放を取り下げこの場にての死刑を執行する。」
「なっなんてキルが……。」
淡々と言い渡すキルは罪人を見る目でウェハースを見つめ、
ウェハースは思わず座り込んだ。
ローブを脱ぎ棄て、臨戦体系に入るキルは白い羽織と黒い和風な軽装になる。
「魔人でもウェハースさんは僕達の仲間です。そうはさせません。」
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