刀を抜き、2人の間に立つチャーリーの声に一行は戦闘態勢に入った。
飛び出すエリーと同時にキルもまた動き出す。
キルが長い袖に隠れた腕を大きく振るうと長い鎖が伸びていく。
先端に短剣のようなものが付いている鎖をエリーは避けるが、後ろにいたキャシーを掠めた。
鎖をつかもうとするエリーだが、次の鎖に気が付き小さく舌打ちをする。
「エリー後ろです!」
いつの間にか背後にまわっていた鎖の先端がエリーに迫り、帽子を掠めていく。
ジュリアンは鎖をつかんで引きちぎるとエリーに駆け寄り手を貸す。
「すまない。それにしても…あの服の下に仕込んでいたのか。何本操っているんだ。」
キルの袖から伸びる8本の鎖はザラザラと音を立て、自由自在に動いているように見える。
ジュリアンに引きちぎられた分はともかく、7本の鎖のうち4本を地面へと突き刺した。
何を、と考えるポリッターだが、
鎖が強くひかれ重々しい音が響き渡ると思わず口を開けたまま固まってしまう。
ガチャガチャと鈍い音がし、鎖が上向きに固定すると地面をえぐった土の塊を高々と掲げた。
「なるほど、氷と炎で鎖を自在に動かしていたのね…。」
一瞬見えた赤い炎にネティベルが納得したようにつぶやく。
「先生、どういうことですか?」
空いていた口を閉じ、ネティベルを振り返るポリッターはもう一度見るがよくわからない。
だが、納得する前にしなければならないことがある。
「地獄の底よりいでし熱き海 全てをのみ込み 灰をも燃やす
全てをのみ込み地獄へ引き込め 上級火魔法火坑」
投げ出される巨大な土の塊は、ポリッターの赤いどろりとした炎がまとわりつき、
一行の頭上でチリとなりきえた。
ほっとするのもつかぬ間、空いた鎖が再び一行に襲い掛かる。
「ウェハース!こいつは何の属性だ!」
鎖を短剣で受け流しつつ少しずつ近付くエリーの声に、
座り込んでいたウェハースはびくりと肩揺らした。
「わっわからない…。でっでも、シヴァ…シヴァル…さんが氷鬼だったから…。」
おどおどと子供が生まれた時を思い出そうとするが、
正直覚えていないどころか鬼一族により立ち会うことを許されなかったため、
聞いたことがない。
一応知っているのは元奥さんが氷を操る鬼であったこと。
それと自分達魔剣士一族が灼熱の炎を操るということだけ。
「馬鹿ですね。母が氷鬼と…。我が一族は代々特殊なもの。
そして私は魔剣士ですのでお前ならばどういう意味かわかるだろう。」
キャシーの弓を鎖ではじき、嗤うキルは再び大きく鎖をふるう。
鋭い一本の槍のようになるとそれを一行に向けて投げ放った。
ジュリアンとエリーの土壁と氷の壁を容易く貫き、足元ギリギリのところへ突き刺さる。
ぐにゃりと力を失い、ただの鎖に戻ると一行の足もとに転がった。
「あまり遊んでいると砂時計も尽きてしまいますし、なによりまだ剣を交えてませんからね。」
手ぶらになったキルは、手を袖に隠したまま腕をふるう。
細い剣がそれぞれの袖から飛び出すとくるりと一回転させた。
「全てを灰へ誘う炎よ!生きとし生けるもの全てを無に還すその破壊の力を我らに!
補助系火魔法猛火炎上」
「駆け抜ける風 その軽やかなる力を遮るものなし 内なる風を解き放ち舞い踊れ
補助系風魔法疾風」
ポリッターの補助魔法により攻撃力が上がり、ネティベルの補助により速度が上がる。
連射速度の上がったキャシーの矢をいとも簡単に落としたキルは、
飛んできた短剣を避けチャーリーとベルフェゴの剣を細い剣で受け止めた。
小さな子供にしか見えないキルの力に内心驚くチャーリーだが、
バンダナからはみ出た小さな角が目の前の少年が鬼であることを物語っている。
2人をはね飛ばし、ジュリアンの拳を避けると、今度はエリーが飛び出してきた。
「小さな子供だと思うな!こいつはずっと年上で鬼だ!」
気合いを入れなおすエリーの言葉にジュリアンは元気良く返事をする。
ふと、近距離で戦っていたエリーの耳に聞きなれない金属音が聞こえ、徐々にその数をましていく。
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