炎の海を渡りきったウェハースにキルはただ標的を見るまなざしを向けた。
両脇から短刀を取り出したキルにウェハースの魔剣がぶつかり合う。
 あっけなくはね飛ばされるウェハースだが、躓きながらも再びキルへと挑む。
 口元に手を置くウェハースは息を深く吸うと、魔剣士族の特徴である灼熱の炎を吐きだした。
 キルに到達する寸前、地面が軽く揺れ高く持ち上がる。
炎をすべて防いだ壁は塵となり消えた。
 
「え…。」
 驚くウェハースにキルは短剣を投げつけ、怯んだすきに短刀を高々と掲げた。
魔剣で受け止めるウェハースだが、やはり弾き飛ばされてしまう。
 地面に刺さった短剣を薙ぎ払い、どうにか道を確保したジュリアンは
不本意ながら飛んできたウェハースを受け止めた。
 
 
「なっなんで…魔剣士は魔法がつっ使えないのに。」
 茫然とした風なウェハースの言葉にポリッターも図鑑で得た知識を思い返していた。
 魔剣士は自分の持つ魔剣などの武器に魔力を吸われてしまうため、
普通の魔法がほとんど使えないはず。
 自分の記憶に間違いはないはず、と考えるポリッターはキルをじっくりと見つめてみた。
『……。…。……。………。』
 鼻で嗤う小さな鬼は飛んでくるエリーの短剣を軽い動作ではたき落とし、
ベルフェゴの背後に回り込む。
「危ない!!ベルフェゴ!!」
 チャーリーの言葉より早く、ベルフェゴは体をひねると剣を受け止め、
転がるように攻撃を避けた。
「気配はあの時しっかり学んだ…」
「師匠は本当にお人よしだからね。まぁ人間の中では嫌いな部類じゃないかな。」
 2人の二対の刀と短刀がせめぎ合う中、精一杯睨みつけるベルフェゴと薄く嗤うキル。
力はあるものの身長が足りないキルは自ら弾かれたように後方に行くと、
短刀を交差させた。  ひらりと緑色の光が輝き、突風のような衝撃波が2本、地面をえぐりながら一行へと襲い掛かる。
「あの短刀…ただの短刀じゃないわ!」
 ネティベルは宝石の色と発動された攻撃に先ほどの土魔法はこれを使ったのね、
と短刀をかいくぐりながら戦うジュリアンに警戒を呼び掛ける。
 キルの剣先から炎が噴き出し、飛んできていたエリーの短剣を塵にした。
一瞬離れるジュリアンに、青く光る剣先から飛び出した水が襲い掛かる。
 鋭い刃となった水に頬を軽く切られ、ジュリアンは間合いを取った。
 
 
「これは私専用の魔剣。魔剣士はそこにいるウェハースのように灼熱の炎しか扱えず、
 母の特性、氷炎鬼は凍てつく炎しか扱えず。
 私はその二つの炎を扱えるものの他の魔法が使えません。
 他の魔法を扱う…・それを可能にしたのがこの魔剣です。
 短い刀身は私がまだ未熟なせい。
 鍛錬を積めば積むほど魔剣は答えてくれますのでいずれは刀へと姿を変えるでしょう。」
 そうつぶやくように自らの魔剣を語るキルは、素早くウェハースの背後へと立った。
慌てて反応するウェハースだが、キルの剣から発せられた見えない刃に反応が遅れる。
 足を切られ、ウェハースが転倒すると駆け寄るエリーの短剣が肩をかすめるのも構わず、キルは短刀を閃かせた。
 真空波がウェハースの背後をえぐると、魔剣を持った腕がその場に落ちた。
何が起きたのかわからないウェハースだったが、強烈な痛みに声にならない叫びをあげる。
 ウェハースの魔剣を腕ごと拾うキルは、絶句するチャーリーを横目に腕だけを鬼火で包み込む。
「後で祖父に処刑の証として送らなければならないですね。」
 
『その腕、どっか転がしといてください。』
 汚らしいものを見る目つきで鬼火を執務室に送ると、仕事をしているタマモに念話を送った。
 
 
 くすくすと笑うタマモは了承の意を返し、
鬼火が消え、床に転がった腕を興味深げに見つめる。
 この後師匠であるローズがどう反応するのか…。
それを考えただけでもなかなか面白い、とタマモは9本の尾を揺らし、
確認の終わった巻物を丸めた。