発覚

 
 鬼火から出たキルは忌々しげに眉間に眉をよせ、ケアロスらのもとへと向かう。
傷自体大したことではないが、一応の決まりだ。
 ケアロスには簡単に止血してもらい、他に異常がないとわかると
ロードクロサイトに念話をつなげる。
【魔王様、2軍戦先ほど終わりました。ジキタリス様に会いたいのですが、
 もう目を覚ましてますか?】
【あぁ、お疲れ。ローズなら部屋に戻ったぞ。
 寝ているから終わったら部屋に来てとか言ってた。】
 念話がつなげにくいあの部屋にいるのかと思うキルだったが、
どうやらロードクロサイトも自室に戻っているらしい。
 戦闘結果を報告済ませたキルは、戦闘で着いた返り血やらを落としてからローズの屋敷に向かった。
 
 
 事後報告で一応は聞いているであろう師匠に報告…
考えただけでも気が重くなるキルはローズの寝室を前にして深々と溜息を吐いた。
私怨ではなく戦闘中にやりました、と言えばいいのだが常々素直に話していた分、
師匠に嘘をつくような気がして余計に気が重い。
 
【そこにいつまでもいないで入っていいよ。】
 ため息交じりの念話が聞こえ、キルは思わずびくりと肩を揺らした。
そっと扉を開け、中をうかがうとちょうど起きたばかりのローズの姿があった。
「失礼します…。」
 思わず小さな声になるキルは中に入ると、寝台のそばにある椅子に座る。
「魔王様に血を吸われてだるいからこのまま聞くけど、どうだった?」
「はい。ジェリーの放った岩を避けた後に、ビルゴの矢を受け、
 回避したもののそのままドンポスの攻撃を受け、
 ポウェルズ兄の風鎌鼬とその弟の攻撃を受け負傷してしまいました。
 時間が来たためそこで宝石を投げて渡しました。」
 すっかり日が落ち、月明かりのみしかない部屋で光る師匠の目に、
キルは終了間際の話だけをする。
 本当はもう少し初めての勇者戦ということで、
自分の足りないところを聞くために詳しく話さなくてはならない。
そうわかってはいたが、上手く言葉にできない。
 ウェハースに執行した刑も話さなくてはならないだろうし、
勇者戦中にやることでもないのをやってしまったことに後ろめたい。
 
 実家関連ではなかなか緊張しないキルだが、知らず知らず師匠を前にして緊張してしまっていた。
ばつが悪そうな顔をした弟子にローズは小さく苦笑すると小さな頭に手をのせた。
「魔王様から話は聞いてるよ。一応そこあたりから幻術解いてもらったから見ていたし。
 殺さないよう傷口をわずかに凍らせたでしょ。
 まぁあれぐらいじゃ死なないだろうし、怒ってないから大丈夫。」
 初めての勇者戦で死人を出さないよう力を制御しつつよく頑張った、
と労うローズにキルはほっと溜息をついた。
 
 
 それでもまだうかない顔をしているキルをローズは手を引いて自分のところへ引き上げた。
「暗殺を主にしている私が言うのは変ですが、
 絶叫というのをはじめて聞いたわけじゃないのに耳に残って。」
 戦闘中は耳触りでしかなかったのに、というキルの頭を軽く抱きしめるローズはやさしく頭を撫でる。
「一応はあんなのでも血がつながっているし、一時でも親として見ていたわけだからね。
 ほっとした半面、これであれとの関係は終わりだって言うのに悲しかったんだよ。
 四天王って言ってもまだキルは未成年なんだし、無理しなくていいよ。」

「そう言われてみれば…そうかもしれないです。
 ずっと目の上のたんこぶ以上だったので…。
 それがなくなったことでほっとした半面、どこか抜けたようで。」
 普段家でも見せない、まだまだ子供な弱い一面を見せるキルはローズに体を預け、
長々と息を吐いた。
「ノーブリー=キル、この度の戦闘お疲れ様。
 ゆっくり休んでから2軍に戻ればいいよ。
 そうだ、今度空中でもうまく戦えるよう修行に追加しておくね。」
 よしよし、と頭を撫でるローズの言葉に顔をわずかにほころばせると、
今更ながら小さい子供のようにあやされている状態に恥ずかしくなる。
 
 そんなキルに気がついたのか、離れようとするキルを抱きしめたままローズは寝台に横になった。
「今日はもう寝ちゃいなよ。僕もまだめまいが取れてないしさ。」
 寝よ寝よ、というローズにキルは、年に一回新年に実家に泊りに来て、
一緒に寝るのをひそかな楽しみにしている分、今一緒に寝るのはなんだか恥ずかしい。
「でっでも…。それなら家に帰ってから寝ますから…。」
「今日は特別。めったにない勇者戦だったんだし。」
 戸惑うキルをしり目に、ローズはさっさと自分とキルを掛け布団で包むと
楽しそうに笑った。
 ようやく観念したキルは、それならとことん子供全開で寝てやるとばかりにローズにくっつくと目をつぶった。
 ほどなくして2人分の小さな寝息が部屋に静かに響くのであった。