先日のキルと戦った庭に続く扉前に飛ばされた一行は、
その扉の雰囲気が変わっていることに気がつき、中へと入る。
次の部屋は広い洞窟で、遠くの大扉までほとんど障害物がない。
屋敷の扉から抜けてきたはずが、振り向けば見上げるほど大きな扉が聳え立っていた。
岩の台座が大扉との間にあり、ローブを着た人物がその前でただ一人佇んている。
思えば1軍の副将には以前出会っている。
一応それとも戦う準備をしていただけにネティベルとエリーは不信感を募らせた。
「ようこそ、絆の勇者。これまでに四天王との戦い御苦労さま。
四天王、最後は私、魔王軍四天王長プリアンティス=アガベ=シィルーズがお相手するわ。
今までの四天王達と違って、私は勇者一行の殺しの許可があるの。
せいぜい生き残って頂戴ね。」
くすりと嗤う女…シィルーズはローブを脱ぎ捨て、
以前と同じ白い上着と黒く短いパンツ、そしてブーツと言う姿で一行の前に立ちふさがる。
「大伯父さんはどこです?」
「さてね。私が四天王長だと言ったでしょ。それよりさっさとかかってきなさい。
こないなら私から行くわよ。」
この後大伯父が来るのか、そう考えるチャーリーだがシィルーズは肩をすくませて微笑むだけ。
一行の動きがないことに目をとめたシィルーズは腰に下げた鋼の剣を抜き、
小さな砂煙を出して姿を消す。
とっさに刀で防御するチャーリーだが、連続した打撃に軽く手にしびれが残る。
離れたところに現れるシィルーズにキャシーの矢が飛んでいく。
同時にエリーとジュリアンが走りだし、同時に両側から飛び込んだ。
風の魔法が放たれ、キャシーの矢が遮られジュリアンの拳を掴んだシィルーズがその体をエリーに向かって投げ飛ばす。
飛んできたジュリアンを受けとめたエリーにシィルーズが蹴りを繰り出し、
2人まとめて壁まで吹き飛ばす。
アイアンに踊りによって召喚した炎の精霊がシィルーズに襲い掛かるが、
直前で突然消えてしまった。
「精霊は私に攻撃できないわよ。他の召喚獣でも出したらどうかしら?」
離れた所からの召喚だったのにもかかわらず、
次の唄の準備をするジミーの背後に現れたシィルーズはくすくすと嗤う。
「しなやかで強靭な幹は全てを受けとめる 防御系草魔法 峰榛櫛」
ネティベルの詠唱と共に、細い櫛の様な柵がジミー達を囲いシィルーズの剣を受け止めた。
軽い音と共にシィルーズの鋼の剣が折れる。
「かくも美しき火の化身
うちにひそめた太陽は万物をも焼き払う
全てを薙ぎ払い己が本能のままに飛びまわれ
その猛気き化身の名をフェニックス」
武器を失ったシィルーズにジミーとアイアンの呼び出した炎の鳥が襲い掛かった。
「物を飲み込み進みしその力を今ここに 中級水魔法水流鉄砲」
至近距離から呼び出された炎の鳥に、シィールズはのけぞると水魔法を放つ。
青い光と共に放たれた水魔法だが、その水柱の太さにネティベルは目を見張った。
通常なら水魔法は草魔法に吸収されるはずなのだが、あまりの勢いに草魔法が負けてしまっている。
すぐさま回復のためネティベルが駆け寄ると、
妨害しようとするシィルーズをエリーが間に入り抑えた。
太股に装備していたらしい短剣で襲い掛かってきたシィルーズはキャシーの矢を避け、エリーから間合いを取る。
「疾風鎌鼬!」
チャーリーから放たれた鎌鼬を見ると、シィールズは短剣を構えた。
「一閃 襟蜥蜴」
シィールズが円を描くようにして放った斬撃が、鎌鼬を巻き込み遠くへ運んでいく。
「死風鎌鼬!」
連続してシィールズから気を貯めるチャーリーに向かって放たれたのは闇属性の鎌鼬。
それも無数の群れとなって広範囲に飛ばされる。
「真円なるその完全な形を持って力を写し、跳ね返せ 補助系土魔法 石鏡」
ポリッターの唱える物理反射魔法により、何匹かシィルーズの鎌鼬が本人に戻っていくが軽く振るわれた短剣によってかき消され意味をなさない。
「その構え…。それにこのラベンダーの匂い…。
どういう魔法を使っているかわからないが、チューベローズ本人だな。」
跳ね返せなかった鎌鼬を切り落とすエリーは汗をぬぐい、
一行の次の手を待つシィルーズをにらむ。
精霊の攻撃が効かないことや、鎌鼬の構えから一度は違うと思っていたチャーリーもさすがに認めざるを終えなかった。
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