くすくすと嗤うシィルーズだが、光に包まれると青い服に身をつつみ、
黒い篭手を装備したチューベローズが姿を現した。
 赤いバンダナは遊びの部分が長く、上着と同じ色のズボンの上に
ひらひらとした腰布が巻かれ、一行と共に行動していた服装とは大きく異なった姿に
チャーリーは刀を持つ手に力を込めた。
 
「やっと同一だって気がついたんだ。ずいぶん遅かったけど。
 まぁベルフェゴにはばれていたけどね。」
 台座に歩み寄るとローズは置いてあった剣を手に取る。
銀月の勇者が所有している神の剣、エクスカリバー。
鞘を腰布に差し込むとすらりと剣を抜いた。
「散々脅した癖に…。」
「そうだったね。でもおかげで君は戦士になれたんだから結果オーライでしょ。
 さてと…この部屋、まだ僕の戦闘用にしてなかったから模様替えさせてもらうよ。」
 ぎりっ、と歯を食いしばるベルフェゴにローズは微笑む。
ローズがエクスカリバーを地面に突き刺すと光があふれ、一行ごと部屋を包み込んだ。
 
 
「…何も起きない?」
 衝撃に備えるネティベルはそよ風を感じ、あたりを見回す。
草原が広がり、穏やかな風に雲が流れる。小川のせせらぎに思わずぽかんとあたりを見回した。
「花鳥風月万華鏡。これが僕のステージ。僕もあんまり使わないから不慣れなんだけどね。」
 ふふふ、と笑うローズは軽く剣を構える。
「剣舞 序幕」
 ふわりとした動作の後、エリーが反応するより早く距離を詰めるローズは剣の平でエリーを殴りつけた。
 舞うかのように一行の間をすり抜け、打撃を加えていく。
「本当に反応遅いなぁ…。今ので全滅だよ。」
 くすくすと嗤うローズは手に持った茶色の髪を風にさらわせる。
前髪を少し切り取られたチャーリーは驚くと同時に、弄ばれていることに憤りを感じた。
「全てを灰へ誘う炎よ!生きとし生けるもの全てを無に還すその破壊の力を我らに!
 補助系火魔法猛火炎上」
「駆け抜ける風 その軽やかなる力を遮るものなし 内なる風を解き放ち舞い踊れ
 補助系風魔法疾風」
 ポリッターとネティベルの補助魔法により素早さと攻撃力があがる。
「堅牢なるその岩岩よ。その強固なる力をわれらに与えよ 補助系土魔法 巖阻」
 もうひとつ、とポリッターが防御を上げると、拳に気を貯めたジュリアンが飛び出していった。
軽く左腕を上げるローズの腕からまばゆい光が集まり、紅蓮の炎が踊りでる。
詠唱するわけでも、詠唱破棄でもなく唐突に魔法を放つローズに、
ネティベルとポリッターは眼を見開いた。
 
「中級魔法…火炎車を詠唱せず放つなんて…。」
 詠唱することで魔力を練り、魔法を放つ。
上級者になれば詠唱せずとも呪文の名前を唱えるだけで魔力が練られ、放つことができる。
逆に、詠唱破棄できる程度の魔力をもった者が詠唱すれば、
先ほどのシィルーズのように上級以上の威力を持つ魔法を放つこともできる。
初級魔法であればネティベルも1つ2つは詠唱せずに放てるが、
中級になると魔力の暴発を防ぐためそんなことできない。
 間一髪で避けるジュリアンだが、バランスを崩したところにローズの足が薙ぎ払われ、
そのまま弾き飛ばされる。
 攻撃力の低いローズだが、手を軸にして大きく足をふるうことにより遠心力を加えその弱点をカバーしていた。
「風と戯れ 風を吹く その姿は可憐であれど 美しきその羽の 
 生み出す風は疾風の如し 戦いを疎みし彼の者は 時として悪戯に目を輝かせる
 その美しき名をアエロー」
 ジミーの呼び出す半鳥半人の女性の蹴爪がローズに襲い掛かるが、
突然地面から岩が生えアエローは攻撃に失敗して消える。
 
 ローズの目の前に生えた岩を皮切りに、一行のいる足場が震え、次々と地形が変化し始めた。
 すぐさま足場を変えるローズだが、一行はすぐには対処できない。
ポリッターの足もとには水がわき出るとあっという間に池へと姿を変える。
木があった場所は大きな谷がぱっくりと口を開き、下を川が轟音を立て流れていた。