足場が岩場になったポリッターはあまりのことに目を瞬かせ、隣にいる師匠を仰ぎ見る。
足場が沼地へと変わったジュリアンとエリーは何とか足を抜き、
岩肌に掴まるようにして立つローズを見据える。
空の色までもが変化し、雲ひとつない澄み切った空にうっすらと月が浮かび上がった。
 
 ひとしきり変化が終わるとローズはそういえば、と岩の上に立つ。
「そういえば自己紹介がまだだったね。
 僕は銀月の勇者改め四天王長、ジキタリス=サルビア=チューベローズ。
 愚神より与えられし性は慈愛。かかって来い、愚かな勇者達。」
 うっすらとした月を背に名乗るローズにチャーリーは眉をひそめた。
勇者としての力の根源である“サガ”。
以前聞いたのは“最も強く最も弱い性”であるということ。
“慈愛”がどうしてそういった表現になるのかは分からないが、警戒するに越したことはない。
 
 
「瞬速剣 風鎌鼬!」
 チャーリーの放つ鎌鼬を簡単に避けると、薄緑色の魔力を足にまとわせ宙を蹴る。
その予測できない動きにキャシーの弓が定まらない。
「んもう!!全然行き先がわからない!」
 
 あちらこちらに移動するローズの剣に光が集まり、ネティベルは素早く防御用の壁を出した。
岩の上に落ち着くと同時に空へ向かって剣を振り上げる。
「広範囲系 上級爆裂呪文 火砕熱風」
 剣を払う様にして打ち出された炎をまとった岩の礫が宙で向きを変え、
一行へと降り注ぐ。
「二閃 花螳螂」
 降り注ぐ礫に負けないよう、壁に魔力を注ぐネティベルの耳に技を使う声が聞こえ、
ひやりとした汗を流した。
草属性の斬撃が壁に当たり、ビシリと音を立ててひびが入った。
 壁が崩れるのと同時に礫は消えるが、とっさに飛び出したチャーリーの刀に鋭い音が響く。
シィールズの時よりも若干強い振動に腕がしびれる。
刀を落とさないよう左手で支えるチャーリーの腹に重い一撃が入り、そのまま蹴り飛ばされる。
 エリーの短剣がローズに向かって飛んでいくが、やすやすとかわされ、当たらない。
 
「広範囲系 上級雷呪文 雷撃」
「母なる大地を支えし強靭な壁 
 行く年を重ね強固なる力を蓄えし力で我らを守りたまえ 防御系土魔法 隆起岩盤」
 詠唱破棄で繰り出される呪文の連射速度が速く、
ポリッターは必死に詠唱速度を上げて土の壁を作り出した。
土の防御魔法はかなりの強度を誇り、水と草属性以外ならば大抵は防ぐことができる半面、
視界が遮られてしまうことが欠点だ。
おまけに元勇者の魔法を防ぐためには詠唱し、少しでも強度を上げておかなければならない。
 雷撃が壁に当たると同時に、ローズが壁を回り込み壁を支えるポリッターに剣を振りおろす。
ポリッターに当たる前にベルフェゴが間に入り、刀で受け止めるが
いくらローズが小さいとはいえ、ベルフェゴよりは身長がある。
何とか弾き返すベルフェゴだが息を荒くし、キャシーの矢を避けるローズに目を向けた。
ローズはジュリアンの拳を篭手で受け、それを流す。
 誘われる形で外に出てしまったジュリアンに雷撃が降り注ぐが
とっさに防御したこともありあまり大きなダメージにはなっていないようだ。
 ほっと息を吐くネティベルだが、何か気にかかる。
なにが、という明確な答えは見えないが。