蝙蝠で見ていたロードクロサイトも思わず知るか、と声を出していた。
【あれ…言ってませんでしたっけ?】
【たびたび思っていたが…ところどころお前の常識は常識じゃないことがあるような気がするんだが。】
 念話でおかしいな、というローズにロードクロサイトが呆れたように溜息を吐いた。
この魔王軍勢でもっとも常識とは程遠い人に言われ、思わずローズの頬がひきつる。
非常識に非常識呼ばわりされた…と頭に怒りのマークを浮かび上がらせた。
 
 
 急にローズの纏うオーラが黒くなった気がするチャーリーは刀を構えた。
「----!---!--!--!魔王様がわからない言語ってこれしかないけど、やっぱすっきりしないなぁ…。」
 突然口早に天の言葉で恐らく罵声と主わかる言葉を放すローズは大きく溜息を吐き、おもむろに剣を振り上げた。
「巨熊重撃」
 風をまとわせた剣を振りおろすと重い音と共に地面が大きく割れ、地割れが走る。
足元に迫る地割れにジュリアンが足元に拳を振りおろす。
そこで地割れが相殺され先に進まなくなるが、ジュリアンの足もとが崩れエリーが素早く彼女を掴んでその場を離れた。
 
 
「時に荒ぶるいたずらな風 木の葉を揺らし 水を散らし 雲を動かすその力 
 万物に宿りし世界をめぐる風 その力を今我に貸したまえ 精霊召喚 下級風属性シルフ」
 不意を突けば、とジミーが再び精霊を召喚すると触角を生やした昆虫の様な精霊が現れ、ローズへと向かっていく。
「下級精霊か…。馬鹿だから確かに僕に向かってこれるね。でも…。」
 迫りくる一陣の風を目に入れたローズは脳なしだから仕方ない、と呟くと地面からわきあがる別の風にうっすらと笑う。
地面からわきあがる風は触れたシルフのその姿をかき消した後もその場にとどまった。
「主に手を出すとは予の眷属の風下にもおけぬ。
 ブリージーは特に目をかけてやったが…歪んだ生物を生み出し、その歪んだ性質を利用されるとは。
 せっかく予が直々に自由に飛び回る翼と、視覚する触角をもぎ取ってやったというのに…。
 あの老婆と契約した悪魔を奪わずに、あの中級精霊をかき消してやれば良かったよのぅ。」
 地面に淡く緑色をした紋様が現れると風が溢れ一人の女性が姿を現した。
蛾のような触角に蜻蛉の様な翼をもった女性…風の精霊王ヴァーユ=シルフはおしいことよ、と呟きながらくるりと一行に背を向けるとローズに向かって膝を折る。
「予の眷属の無礼、許してたも。我らが王よ。」
 
「笑止笑止。貴様ら風は本当に馬鹿だ。脳がないゆえ軽いのだろうな。」
 高く笑う声と共に今度は黒い紋様が地面に現れ、宿でチャーリーの前に現れた男が再び姿を現した。
くつくつと嗤う男…闇の精霊王ハデス=シェイドは何節にも分かれた指を口元にあて、闇に覆われたフードからのぞく口を矢なりに反らした。
「シェイド。貴様はだまりゃ。おめおめと次の媒体となりえる上級精霊をあの老婆に奪われるとは貴様こそ闇ゆえ実態がないだけでなく脳もないのではなかろうかのぅ?」
 鋭い風が吹き、シェイドの闇の衣を巻き上げるがシェイドはにやにやと笑うだけでなにも言わない。
それどころか、赤い紋様、黄色い紋様、青い紋様が地面に現れやめよやめよ、と声が上がりローズは溜息をついた。
「ヴァーユ、ハデス。今は勇者との戦いの場。わしらの喧嘩の場じゃねぇぞ。」
「イフリートの言うとおりだべ。わっすらは今戦いに出てはいかんちゅう命令じゃ。」
「あらあら。主、申し訳ございません。ディアナが必死に止めたのですが、所詮は光の精霊代理王。マナの精剣から離れることができませんので私どもがこの場に出てしまいました。」
 火の精霊王、イフリート=サラマンダーは間に入ると、ヴァーユとハデスを睨みつける。
岩男の様な巨体とごつごつとした姿をした土の精霊王ティターン=ノームは大きく溜息をつき、半身が魚の女性、水の精霊王アズミイソラ=ウンディーネが笑う。