「あのねぇ。ティターンの言うとおり、今勇者戦中なんだけど。
帰って。というか帰れ。」
集まった精霊王達に驚き、思わず凝視する一行に目を移すローズは大きく溜息をつき、帰れと繰り返した。
その言葉に精霊王達は一斉にチューベローズを振りむき跪く。
「失礼申しました。だが主。精霊は交わってはならぬのが常識。ましてやそれを犯したのが予の眷属とあれば、予が落とし前をつけねばならぬ。」
「我の眷属の無礼。我もまた我らの掟に従い異分子は排除せねばならぬ。
もっとも、今歪みし者が人間でありたいというならば話は別。
精霊の力をはぎ取り、完全な人間としてくれよう。」
出てきたときと同じ紋様を地面に描き消えたイフリート達とは逆に、立ち上がりジミーを見据えるヴァーユとハデス。びくりと顔を上げるジミーだが、返答はない。
「あぁそういうこと。メイデン、どっちか今すぐ決めてもらおうか。ハデス、ヴァーユ。
マナをここに召喚して。いい機会だから枯らした人間たちに魔界でよく育っているってところ見せてあげようよ。」
頭をかくローズは仕方がない、と呟くと戸惑うジミーを見下す。
今すぐ精霊か人間かを選択するよう求められたジミーはびくりと肩を震わせた。
精霊王がかき消えるとローズはエクスカリバーを鞘におさめ、ジミーを窺うように見える。
「本当は今すぐやりたいわけじゃないし、とっとと終わらせて戦闘に戻りたいんだけど。
さぁ早く決めて。僕は人間なんかに時間を割いていたくないし、この場所も気まぐれで変わるから変わる前に面倒事は終わらせたいんだよね。」
そう言い放つローズの背後で小さな芽が地面から顔をのぞかせると、またたく間に若い木へと成長していく。
幹には美しい女性を模した木目が現れ、何かを抱いていた。
「嘘でしょ…。あれはエルフの森にしかないはず…。」
淡く燐光を放つ枝と葉にネティベルは眼を疑った。闇の水晶が生長すると同時に衰退し、伝承ではヴァッカーノ国ができる少し前に地上から姿を消したとさえいわれていたはずの樹。
ネティベルの反応にエリーとチャーリーもまた、突然生えた気が何であるかを知り、眼を見張った。
外界から閉ざされたエルフの森、ホーリーフォレストに生えているとさえいわれていた伝説の樹がなぜこの元勇者の背後に生えたのか。
「どうして大伯父さんが…。」
「歴代の勇者にはそれぞれ適正がある。僕の適切な剣は魔力を最大限に生かし戦う精霊の剣、マナ。
そしてそれを抱く全樹の木。しかし僕の代ではマナは人間たちのせいで種となってしまっていた。
見てごらん、数十年かけてようやくここまで成長したんだ。」
チャーリーの呟きにローズは淡々と答える。光の精霊王代理…ディアナは剣を抱いたまま樹から抜け出すと跪き、ローズへと剣を掲げる。
細い刀身は剣としては短く、ベルフェゴの持つ脇差ほどの長さしかない。
柄は花や蔓に覆われ精霊たちの…自然の剣であることを暗示させていた。
「人の神は魔王に対抗するため光の精霊王に契約を持ちかけ、勇者の印にし、マナの所有者を光の精霊王とした。
全樹の木は精霊たちの宝。それに戦うすべとして剣を作りだし…。
そして今現在僕の手の中にある。」
剣を受け取ったローズは静かな声で精剣マナが生み出された経緯を語る。
コウモリごしに見ているロードクロサイトはローズの様子に眉を寄せるが、それよりも普段話したがらない話に興味を寄せていた。
「あら、ローズの目。よっぽど嫌いなのね。あの一行。」
突然背後から聞こえた声にロードクロサイトは振り向くと、どこからか花を摘んできていたらしいフローラがコウモリの写しだす光景を覗き見ていた。
「あぁ、これ?前にシィールズの服装選びに行ったときに、お礼に庭から好きな花をいつでも摘んでいいって…。」
「いきなり背後に湧くな。しっかりこの部屋で監視してるだろうが。」
手に持った花束の話をするフローラにロードクロサイトはため息交じりに言う。
「失礼ね。それに監視しているって…当り前じゃないのかしら。
どうせほとんどローズに押し付けているんだからそれぐらいはやらないと。」
さっさとあっちにいけ、というオーラを漂わせるロードクロサイトだが、フローラにぴしゃりといわれむっと押し黙った。
「そうそう。魔王様、ご報告があります。エメラルダ様らはまた気ままに旅に出るそうです。」
事務的な用事があったわ、と部下として報告するフローラにロードクロサイトは深々とため息をはいた。
頭痛の種が一つ減った気がする、と内心呟くロードクロサイトだが、本当に頭痛の種が減った、と胸をなでおろしたのは日々町を監視ししている2軍達である。
勇者一行にあまり近寄らないようにするため延々と二人の繰り出す、砂しか吐き出せないような空間に付き合い、既に病欠者が2ケタに上ったらしい。
やれやれ、とコウモリに視線を戻すと、ようやく話に決着がついたらしい。
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