思わず出たくしゃみに手元が狂ったローズはチャーリーに向かって放った技が地面を大きくえぐり、あっという間に水で満たされるのをみると小さく舌打ちをする。
 勝手に切り替わるため、術者であるローズの意に反する地形にもなってしまうので仕方ないことだが、9割が腰以上の水深をもつ泉に変わったことにいらだちを隠せない。
 表面を凍らせては見たが、そもそも寒さに弱く脳裏のよぎる白い世界の記憶で、せっかく安定剤を飲んだのに早くも耳鳴りが聞こえ始めていた。
 一行も寒そうにはしているが、氷で作られた足場を使いローズに向かっている。
チャーリーの鎌鼬をよけると横から来たエリーの短剣をはじき返す。
 なんとか召喚術が使えるジミーはとてもハイテンションなアイアンとともに水辺の召喚獣を使い氷を突き破ってローズに奇襲をかけている。
 
「中級火魔法火炎車」
 詠唱破棄で呪文を唱えるポリッターから放たれた火の魔法がローズの足元を大きく抉った。
 避けた先の氷にひびが入り、ヒールが穴に引っかかる。
 穴から引き抜く前にキャシーの矢が頬をかすめ、反射的に身をひねった影響でバランスを崩す。
 左手で受け身をとるが、もともと負傷していたためか、鋭い痛みが走りうまく魔力が操れない。
 
 
 不意に水が地面に吸い込まれていくとごつごつとした岩が顔をのぞかせた。
 空もまた青空から急に暗くなるとぼんやりとした明りを残し岩肌の洞窟へと姿を変える。
 うっかりやらかさないように、と瞬きで夜目に切り替えると戸惑うネティベルの足を払う。
「っ!見えているの!?」
「確かそいつは淫魔だ!この暗さではむやみに攻撃するより守りに徹したほうがいい。」
 なんとか転ばずに踏ん張ることができたネティベルは暗さに目が慣れず、なんとかわかる銀色の髪に目を向ける。
気配で場所がわかるベルフェゴとなんとか目が慣れたエリーは攻撃を繰り出すが、遠近感がわからずかすめることすらできない。
 当て勘で攻撃を繰り出すジュリアンだったが、ローズに当たる前に避けられ、腕を掴まれると地面に叩きつけられた。
 動きが読めない一行がいつ剣に刺さるか分からず、止み終えなく剣を収めると身軽な体を使い動きが鈍い一行へと近接攻撃を仕掛ける。
 
 このままでは大伯父に攻撃をあてることができない、と焦るチャーリーは袋の中を探る。
 ここに来る前、天界でもらった闇魔法により視界が悪くなったときのためのアイテムを思い出していた。
 閃光球という小さな黒い球は投げると暗い洞窟内に明かりをともすのだという。
光魔法が自由に使えれば必要ないだろうが、チャーリーはあまり魔法自体が得意ではないことを自負している。
「きゃ!」
 キャシーの声が聞こえ、その近くにいることが分かる。
矢を放つことができないキャシーは巨体ならではの腕力を使い蹴りを入れたローズを打ち払う。
 左腕に当たったらしく、弾き飛ばされるのをうっすらと視界にとらえる。
 とにかく明りを、とチャーリーはえいっと投げた。
「みなさん!気を付けてください!」
 使う前に必ず眼を守ること、そう念を押されていたためチャーリーが声をかけると投げたのに気がついた一行はさっと眼を覆い隠す。
 
 
 キャシーから思わぬ反撃を受け、弾き飛ばされたローズはジンジンと痛む腕を軽く振り、まったく力が入らないことに小さくため息をつく。
 ふと、チャーリーが何かをする動きが見え、飛んできた黒い小さな玉に眉を寄せた。
「みなさん!気を付けてください!」
 チャーリーの声とともに小さな球が白く発光する。
【ローズ!夜目を切り替えろ!!】
 ロードクロサイトの念話が頭に響くが切り替えようとした瞬間、ローズは白い世界に灼熱の痛みとともに放りこまれた。