ローズを中心に衝撃波が飛び、かがんだチャーリーらの頭をかすめ壁をえぐる。
「イタイ…クルシイ…痛いは苦しい。クルシイはイトウシイ。イトウシイは憎い。」
 他に装備していたのか、鋼の剣を取り出すとチャーリーへと振り下ろす。
見えてはいないはずだが、気配に反応しているのか、正確にチャーリーの振り上げた刀へとぶつかり火花を散らせる。
「愛するは憎しみ。愛するは無情。愛して愛させて愛して憎しませて殺して殺させて壊して愛して…誰も人形に愛はくれない。人形は人形らしく…フフフフ。愛して殴って雪に入れて殴って絶望を希望を。握って潰して与えて奪って踏みにじって。白い世界を赤く染めてあははははっはははっはは。」
「一体何が言いたいんですか!!」
 ローズのまったく意味にわからない言葉の羅列に全身が震え、思わずチャーリーは叫ぶように問う。
 いつもの余裕を見せた表情はなく、閉じた目からは血があふれ口元は歪んだ笑みを浮かべる伝説の勇者の姿にジュリアンとネティベルは竦んで動くどころの話ではない。
 
「狂乱…なるほど。こいつの頭は人間への恨みと憎しみと…性の慈愛とで狂ってる。ネティベル、回復はいい!どうせこいつの攻撃を食らったら一撃だ!攻撃に専念してくれ!!」
 ようやく二つ名の意味がわかったエリーは本能が逃げたいと叫ぶのを押し殺し、空いているローズの背中へと飛びかかった。
だが、狙った背中ではなく伸ばされた腕に短剣の刀身を捕まえられ、動きを止められる。
「狂わせたのはお前達だ。」
 見えていないはずのローズと眼があった気がし、エリーはすぐに後ろへと飛びずさった。
追撃しようと動くローズだったが、チャーリーから飛び退くと短剣を引き抜いた左手で顔を覆う。
 
「やばい…狂気…くす…り……魔王様……紋…力解放」
 必死に小瓶を出そうと袋を探るが、どこにもない。手に触れる細い紐を引き出すと素早く右手首にくくりつけた。
 ローズを包むように白い光があふれると細かな傷が消えていく。
手の傷も再生するが完全には治らない。
再び笑いだすと剣を構え、ジュリアンへときりかかる。
「なんだ、ローズの言っていたお守りとやらはそれか…。いつ盗ったんだ……って昨日の朝か。」
 
 
 ローズの背後から剣を止めたのは長身の男…この四天王の最後にいる魔王ロードクロサイトだ。
「少しでも正気を保っていればよかったんだが…。対勇者一行だから暴走したんだか…お前達が原因で暴走しているんだか。これは要尋問だな。ローズ、正気がまだ残っているなら剣を捨てて…。」
 とりあえず、と引くロードクロサイトはやれやれとため息をつくと幻術がかけられないことにどうしたものかと考える。
 動きは止まってるローズに理性は残っているかを確認するが、魔力が練られたことに気が付き壁に向かって投げつけた。
 くるりと向きを変えるローズは地面に降り立つとケタケタと笑う。
「だめだな。幻術も使えないんじゃ動けないようにするしかないな。」
 めんどくさいなぁといいながら、背負っていた長い武器を手にするロードクロサイトはうきうきとした表情で手に持った獲物を軽く振りまわす。
「いや〜〜前に手に入れてからハルバード使ってみなかったんだよなぁ。意思がないから手加減できないし、どの程度の威力かもわからないが…ローズはまぁ最悪手足いったところで修復可能だからな。」
 ロードクロサイトの背丈と同じ長さのハルバード…先端に槍と斧、突起が備わった武器を軽くふり、剣を構えるローズへと向かう。
 突然の登場と不気味に笑う元勇者と…あまりの展開についていけない一行は顔を見合わせ固唾をのんで動きを見守る。
「あぁそうだ。ローズが反応しないようにそこを動くなよ。うっかりローズの胴体とか首とかやったらさすがに回復できない。あいつよりうまい血もシィールズよりもいいのも今のところいないからな。」
 魔王が出てきたことで機会をうかがっていたエリーはロードクロサイトの言葉に動きを止めた。
 ふと、自分達にかかっていた殺気がなくなり体の震えが止まったことに気がついたネティベルは唇をかんだ。
 今ならいける、と考えたがその考えが浮かんだのはローズの意識がロードクロサイトへと向かい、殺気がなくなったことだと気が付いたのだった。