先に動いたのはローズだ。駆け出し剣を閃かせるとロードクロサイトは斧の部分で受け止める。
弾き飛ばすとそのあとを追い、柄の部分で叩きつけた。
左腕の籠手で受けるが、魔王の一撃により籠手は壊れ、鈍い音が聞こえる。
「肩まで逝ったと思ったが…二の腕だけか。そういや紋の力を解放してたな。防御と攻撃の上昇効果だったか?」
体勢を直すローズをみたロードクロサイトはおかしいな、と首をかしげた。
大きく剣をふるい、鎌鼬を放つローズは左腕をつかむと強く引き、折れた骨を元の位置に戻す。
白く輝く帯が左腕を包むと難なく鎌鼬を避けたロードクロサイトへ向け幾つもの水泡を放った。
「高速回復できるからってまた痛そうなことを…正気じゃないローズは本当に危ないな。魔力が切れるのを待つべきか、それとも回復できないぐらいまで痛みつけるか…。」
さぁてどうしようかなー、と槍のように先端を地面に突き立て、高く跳びあがる。
見失ったのか、警戒するローズははっと顔を上げると剣を頭上に構えた。
大きく振りおろされる斧を受け、膝をつく。
ロードクロサイトはそのまま反転するとローズを蹴り上げる。
反応に遅れたローズはまともに食らい、壁に体を打ち付ける。
起き上るローズだが、駆け寄っていたロードクロサイトの持っているハルバードの突起に右手の籠手を引っ掛けられ、投げ飛ばされた。
「あ…。思いっきり頭打ち付けた。やばいなー。ローズの耐久性は人間と同じって言われたのになぁー。」
どうも加減ができない、とハルバードを片手でくるくると回すとローズが起き上るのを待つ。
ふらふらと立ち上がったローズは白い光に包まれると急速に傷が消え、目と腕以外の治癒が完了する。
「さて…あと何回で魔力が尽きるかなー。」
勇者戦前の準備運動もとい、対人間への感覚調節にうきうきとするロードクロサイトはハルバードに指を滑らせると大きくなぎ払った。
気配で気がついたのか、ローズは剣でくるりと円を描くと花蟷螂を放つ。
だが、ロードクロサイトの放った一撃はローズの技をかき消し、威力を殺すこともなくローズへと当たった。
「やっぱ万全な時じゃないと面白くないなー。反応遅いし…いつもならこれぐらいかき消せるだろうが。眠いし、一気にやるか。」
飛んできた鎌鼬をやすやすと避けると、無造作に空いた手で何かを投げる。
正しくは空いた手に集めた魔力で魔法を放ったのだが、チャーリー達には魔力が集まる瞬間を見ることができなかったのだ。
そうして放たれた炎魔法はローズのいた場所に当たると業火となり、あたりを赤く照らす。
「上級火魔法…。ための時間なかった…。」
ぼそりと呟くポリッターは目の前で放たれた魔法に信じられないと目を見張った。
もうもうと立ち込める煙の中へと進むロードクロサイトは何かを強く蹴り飛ばす。
弱弱しく白い光に包まれ、回復しているローズは蹴り飛ばされると一瞬強く光るが、魔力が足りないのかすぐに消えてしまう。
「ん?もう魔力切れか?」
ふらふらと立ち上がるローズだが、先ほどのように傷がふさがらない。
「……で、私は……そう。私の……聞き…。」
ぶつぶつと呟くローズに答えるかのように、突然地面が弱く振動を始める。
「私の教えに……い。我々の……大洪っ!」
だらりとたつローズだが、ロードクロサイトは正確にその細い喉を蹴り飛ばした。
無防備なまま攻撃を受けたローズはぐったりと倒れると、なんとか起き上ろうとあがく。
「あっぶないな。地上ふっ飛ばす気か。」
一瞬にして間合いを詰めたロードクロサイトは何時になく…いや、はじめてじゃないかと思えるほど険しい顔をし、せき込むローズを見た。
ふと、喉を押さえていた右手に何か気がついたのかローズは起き上ろうとするのをやめ、腕に付けた紐…もといロードクロサイトの髪紐をまるで見えているかのように掲げる。
小さくため息をつくロードクロサイトはローズの前髪をつかむと大きく息を吸い込んだ。
「いい加減目を覚ませ!!!チューベローズ!」
部屋の中いっぱいに響くほどの大声で名前を呼ぶロードクロサイトにローズはくらりとよろめくと、おとなしくロードクロサイトに抱え込まれた。
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