「いつまでも腰を抜かしててもいいですが、そろそろ一軍の血の気の多い連中がぶち切れて来ますよ。」
突然聞こえた声に思わず飛び上がるジュリアンは、エリーに思わず縋りつくと黒ずくめの小さな人影を目に入れる。
「さっさと宿に帰ってくださいと言っているのですが。さっきまで一軍をなだめていたミズチ様とフェンリル様の両者がジキタリス様の様子を見に行っているので、スォルド様が抑えるのに疲れた場合肉片も残らないかと。」
黒いオーラを放つ小さな影…キルは戦闘時と同じローブ姿で冷淡な目を一行へと向けていた。
「質問は一切受け付けない。なぜ、何、どういうこと…など口に出した瞬間師匠と同じように目をつぶします。私が聞きたい返答は、はいかいいえ。今すぐ宿に帰るのか、それともここに残り激昂した一軍により粉砕されるか。お好きなほうをお選びください。20秒もあれば返答できるでしょう。」
口を開きかけるチャーリーに手で制すキルは一層表情のなくなった目で返答を促す。
「あぁ、返答の前に一つ。私は戦闘で死傷する分には仕方ないし、負けたほうの力量が足りていなかったものだと解釈しています。目が焼けたのも師匠が夜目を解除しなかったということで理解しています。が、やはりまだ私は未熟なのでしょう。現在自分の感情を抑えるのにずいぶんな気力を要しています。」
淡々と話すキルだが、心なしかあたりの空気が冷えているような錯覚を覚える。
実際、一行に焦点を合わせないようにとその手前を見ていたのだが、そこに青い炎が立ち揺らぎあたりを白く凍らせていた。
「戻るわ…。だからその物騒な気を静めてくれないかしら。」
「いいでしょう。鬼火で飛ばしますので眩暈が生じるでしょうが、師匠の目の痛みに比べればなんてことはないでしょう。」
ネティベルの言葉にキルは頷くと体を蒼い炎へと変え、一行ごと包み込んだ。
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