光が消え、1軍から魔王の間へと続く扉の前に立った一行は周囲を見直す。
入った時ただの壁だった場所には暴走した四天王長と魔王の戦闘の傷跡が深く残されていた。これから戦う相手が遠慮なく戦った傷。
おそらくは他の四天王らと同じく本気は出さないだろう。
だからこそ、そこを全力で戦って本気を出す前に倒すしかない。
顔を改めて見合わせ、扉を開いた。
細い廊下があり、先は暗くて見えない。足が固い石を踏む甲高い足音が響き、いおうなしに緊張が高まる。
ふと、廊下の先がひらけた空間が現れた。
壇上へと続く階段とその上に座る男の姿があり、一行は身を固くする。
「ようこそ。やっとここまで来たな…というべきか。」
椅子に座った男…魔王ローキことロードクロサイトはやや上機嫌で一行を眺める。
血を吸われた四天王長は現在完全にダウンして4軍の頭を悩ませているが、お気に入りの甘い血を飲んで上機嫌な魔王は気を失う前に四天王長が呟いた言葉を思い出す。
元勇者なだけあってどういう心境でここに来るのかわかっている、と念話で伝えられた言葉を一行へと伝えた。
「愚かなる人でありながらよくぞ、我が僕の試練を乗り越えここまできた。だが、貴様の持つ勇者の性もここまで。さぁかかってこい。私に勝つという愚かな勇気と思想に終止符を打ってやろう。」
思い上がった勇者を冷静にするための言葉を、というローズの言葉に従ったロードクロサイトは意外にいいかもしれない、と内心つぶやく。
現に一行はチャーリーを中心として戦闘準備に入っている。
「さぁ、くるがいい。」
立ち上がったロードクロサイトの右手にはめた指輪が光り、身の丈もある大きな鎌が姿を現した。
普段はあまり使わないが、せっかく手入れをした大魔鎌。
人間は殺すなと命じてあるのでよっぽどのことがない限りはぎりっぎりセーフ程度にはなるはずだ。
というか、剣より大鎌でくるほうが怖いし、より緊張するし魔王らしいし、鋼の剣でくるとかもう馬鹿じゃないですか、と元勇者に言われ、それもそうかと納得したというのが今回これを使うことにした一番の理由だったりする。
最後の暴言に、体調に気遣って浅く噛みついていたのを遠慮なく思いっきり噛みつき、悲鳴を上げられないローズは気絶したのだった。
「少しの間でしたが、一緒に旅をしたあなたを相手にするのは少々心苦しいです。ですが、全力であなたを倒させていただきます!!」
今までにない緊張した空気を纏う一行にロードクロサイトは魔力をいつでも放てるよう手足に意識を巡らせる。
まず動きだしたのは前衛のエリー、ジュリアン、チャーリー…そしてベルフェゴだった。
エリーの投げたナイフをはじき、ジュリアンの拳を軽い動作でよけるとベルフェゴの2本の剣を鎌から延びる鎖ではじき、チャーリーの剣を鎌で受けると空いた胴を蹴り飛ばす。
前衛を退けると後衛であるキャシーの矢、ポリッターの魔法、ネティベルの補助魔法と…そして利き腕を失ったウェハースの業火が魔王に向かってくる。
大鎌の先端が開き、内蔵された水晶が飛び出るとポリッターの魔法とウェハースの業火を無効化し、大きく振るった鎌の斬撃で矢が切り裂かれる。
間を開けず背後から襲いかかる狼系の召喚獣の姿を確認することなく、手元で回転させた鎌で切り捨てる。
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