挑発して動かないのも面白かったが、こうし懐に飛び込んでかき混ぜてやるのもなかなか面白い。
思わず笑みをこぼすロードクロサイトはジュリアンの拳をかがんでよけると、鎌を頭上で大きく回した。
自分を中心に円の外側が若干下がるように振り回され、風が巻き起こる。
慌ててよける近接組だが、何よりその範囲が異常なほどに広い。思わず舌打ちをするエリーは遠距離組でさえ距離を置くのを目の端に入れる。ロードクロサイトが回した鎌の柄からは鎖状に連なった刃が最大まで伸び、風を起こしながら地面をえぐる。
その風ですら油断はできない。
 
「何だ。魔法でも打ってくるかと思ったんだが…動かないならこちらから行くぞ。」
 風の中心にいるロードクロサイトが鎌を止めると瞬時に鎖は柄に戻る。
チャーリーが反応するより前にロードクロサイトの姿が掻き消え、一瞬戸惑うように足を止めたジュリアンの背後に現れた。
「ジュリアンさん後ろ!!」
「っ!」
 チャーリーの声に反応し、身をよじるジュリアンだが至近距離で魔王の一撃が入る。
ローズで一応確認した、人間の骨が耐えられるギリギリの力で拳を入れるロードクロサイトだが、吹き飛ばされたジュリアンはそのまま戦闘不能となる。
 
 まず一人目、と飛んできたキャシーの矢をよけると大きく息を吸い込むウェハースを目の端に入れた。
まぁ多少死ぬような眼にあっても大丈夫だろうとチャーリーの鎌鼬をよけ、足にためた魔力をかかと落としの要領で地面に突き立てる。
「地を這え 応用魔法地走り 中級水魔法水流鉄砲 」  水柱が上がるとエリーの氷魔法が行く手を阻むのも退け、ウェハースへと向かう。
慌ててよけるウェハースだが、ロードクロサイトの狙いはウェハースではなかったらしい。
全員が気を取られている間にジミーの出した召喚獣を切り捨て、無防備になったアイアンとジミーに氷の礫を当てた。
礫といっても一個や二個などの量ではない。おそらくは下級氷魔法の氷雨。
無数の氷の雨に打たれ、二人ははじきとばれる。
 ローズと同じく呪文の名前もない詠唱破棄によって唐突にはなつロードクロサイトにポリッターとネティベルは知らずのうちに唇を噛んでいた。魔導師を多く生み出し世界中に送り出している魔法大国出身の二人は自分たちと、魔王と四天王長の魔力に対する技術の違いに、驚きを通り越して畏怖と尊敬すら抱く。正気の状態の元勇者と魔王の対決はどれほどのものだったのだろうか。  
 
 事前の作戦でチャーリーは反対したがあえて戦闘不能になった3人の回復はしない。
本当はジュリアンを回復したいところだが、先ほどからの戦闘を見て遠距離からでも技で攻撃できるチャーリー達とは違い、ためが必要な分技が繰り出せないジュリアンは圧倒的に不利だ。
 少しでも魔力を温存するため…ほとんどスズメの涙ほどしかない補助魔法と回復のために…いざとなれば攻撃できるようにネティベルはギリッ、と奥歯をかみしめた。
 ポリッターを囲い張った結果だが、魔王の魔力の前にはきっと無力だろう。
幸いなのは魔王はうっかり事故が起きそうな魔導師である自分たちに今のところ攻撃を向けていないということ。
 ふと、キャシーの矢をよけたロードクロサイトがわずかに距離をとる。
鎌鼬のためにわずかに気をためるチャーリーをフォローするためベルフェゴが前に飛び出した。
 それをどこか嫌な予感として感じたネティベルはベルフェゴの行く手を阻むかのように大きな土壁を作り出す。
驚いて止まるベルフェゴだが、ぞわりと背筋に冷たいものが走り地面へとふせった。
 途端に部屋ごと揺れているのではないかというほどの衝撃が走り、慌てて伏せたネティベルとエリーそしてチャーリーの頭上を暴風が吹き荒れる。
 
「せっ先生!もしかして…上級風魔法の風魚之災ですか!?」
 ネティベルに引きずれるようにして伏せたポリッターは予備として頭の上に乗せていたメガネが吹き飛び、巻き上がる土に目を細めた。
だが、いくら待っても返事がない。
 幾分治まった風に顔をあげると少し離れたところにネティベルが倒れている。
 その先ではキャシーが巨体故に伏せただけではよけきれず壁際まで吹き飛ばされていた。
どうやらキャシーに呪文が当たった瞬間、思わず体を起こしたらしい。
もともと体力の少ない白魔導師。エリーが回復薬を手に駆け寄り、チャーリーがロードクロサイトに向かって切り込む。
 ぎりぎり戦闘不能になっていなかったらしく、エリーから受け取った回復薬でなんとか立ちあがると全体回復魔法をかける。