チャーリーの怪我をすぐ回復させていたネティベルは魔力の回復薬を飲むと、弟子が倒れたことに内心ほっと息を吐いた。
ロードクロサイトの詠唱なしの魔法をもし直撃で受けてしまったら…そう考えると、国にどんな顔で帰ればいいのか想像もしたくない、とすぐさま回復以外に攻撃呪文の準備をする。
「乱れ咲きの花 一度吹けば吹雪となる花弁よ その美しき姿と無数をもって切り刻め! 一点集中 上級植物魔法 百花繚乱!」
ネティベルの魔法によって生み出された無数の花弁が槍のように集まり、一斉にロードクロサイトへと襲いかかる。
「刃を基に生み出されし一陣の風 その鋭さを持って道を切り開け! 中級風魔法 太刀風」
エリーの唱えた呪文によって鋭さと速さを手に入れると四方からロードクロサイトのいる場所へと突き刺さった。
花弁と土埃が消えると速度をあげられたおかげか、回避せずに防御態勢をとっていたロードクロサイトの頬と腕にダメージを与える。
面白い、と頬に垂れる血をわずかに舐めとるとキャシーの矢を最小限だけよけ、鎌の柄を地面に突き立てる。
「かくも美しき火の化身 全てを薙ぎ払い己が本能のままに焼きつくせ 上級火魔法 飛翔鳳凰」
鎌の先端に付いた水晶がまばゆく光ると大きな鳥をかたどる火が羽ばたきを始めた。
羽ばたくだけでも熱風を呼び起こし、燃え盛るくちばしからは炎があふれる。
「その勢い万物を押し流し 大河の流れを生み出すその力を今ここに 上級水魔法水簾!」
エリーの詠唱が聞こえ、火の鳥へと水が襲いかかるが、鶏冠と首周りの炎が弱まっただけで、逆に怒ったようにエリー目がけ飛び立つ。
こめられている魔力の違いから、本来相殺できるはずの属性がまるで歯が立たない。
エリーはそのままとっさに防御する腕を火の鳥に銜えられ壁へと叩きつけられる。
対魔法防御が高いはずのコートは火の鳥に触れた部分だけ焼け落ち、圧倒的な差を見せつけられた。
だが、とネティベルは戦闘不能になったエリーからロードクロサイトへと視線を移す。
先ほどから詠唱しているのはおそらくロードクロサイト自身魔力がかなり減っている証拠。
詠唱破棄さえしていないということは上級魔法が唐突に放たれる危険性は低い。
「一点に凝縮されし破壊の力 その力を今こそ解き放て 上級爆裂魔法 爆破」
「彗星群 白鳥飛翔!!」」
ネティベルの詠唱に合わせるかのようにキャシーの技が発動し、ロードクロサイトへと襲いかかる。
ロードクロサイトは鳥が飛ぶように一団となって飛んでくる矢を切り捨て、ネティベルの魔法をよけつつ、切り込んできたチャーリーの刀を受け止める。
「瞬速剣 風鎌鼬!」
ごく至近距離から放たれた鎌鼬にロードクロサイトはわずか眉を上げると最小限のダメージになるよう身をよじり、チャーリーに蹴りを入れた。回避できずに直撃を受けるチャーリーだが、飛ばされながらもぞわりとした感覚に刀を後ろに向ける。
キン、という音が聞こえ、ロードクロサイトが闇の移動呪文”影追い”でチャーリーの影にもぐりこみ不意打ちを食らわせようとしたのがわかる。
自分でも理解できない行動に驚くが、すぐさまその理由が思い当たった。
以前の銀月の一行との対戦中、同じ手を使ったのだ。
勇者の紋からの経験値で、やっと反応できた攻撃。
これをあの大伯父は、一回目はまともに食らい、二回目は防御した。
勇者の紋に追加された経験がわずかな記憶をチャーリーへと呼び起こした。
「旋風 虚月」
ロードクロサイトの大鎌から放たれた技が体力の残り少ないキャシーとネティベルへと襲いかかる。
二人が倒れる気配を背中で感じ、チャーリーは自分の残りの体力と魔力を考え、刀に気をためる。
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