くすくす、と女性の笑い声が聞こえ、チャーリーは眉を寄せた。いつのまにか明るい。
柔らかな感触を頬に受け、チャーリーはゆっくりと目を開いた。
すぐ近くにはポリッターがおり、ぼんやりとしたまま周囲を見渡すと、見たことのない広い部屋にどこだろう、と考える。
ふと、何となく胸元を見ると勇者のしるしが淡く光った後、ほとんどわからないほど薄くなり、瞬きでどこに紋があったのかすらわからなくなる。
ふかふかと柔らかな寝台は本来なら大きいと感じるのだろうが、今は自分のほかにポリッターが寝ており、部屋の真ん中の床にはウェハースが転がっている。
そのほかメンバーの姿はなく、それどころか宿でもないことにチャーリーは目を開き、慌てて腰元を探る。
「起きたにょ?刀はアブにゃいからそっちにょソファーにおいてあるよ。」
見知らぬところで武器もなく、焦るチャーリーだが、扉が開き顔をのぞかせた猫又に目をしばたかせた。
小柄な猫又はいつだったか街で見かけた馬車で号令をかけていたものに毛並みが似ている。
「シャムリンちゃん、あいつ、また庭に行きたいの何だの言ってたから、ちょうど様子を見に来たシルフに丸投げしてきちった。って、チャーリー目が覚めたか。」
シャムリンと呼ばれた猫又に続いて入ってきた初老の男は、チャーリーが起き上がっているのに気がつくとよかった、と笑う。
「なっなんでおじいちゃんが…。」
「実を言うと、天界で手間取っているなんて知らなかったから、ちょうどチャーリー達が来た時ぐらいからずっといたんだ。さすがにローズ戦後は気が立っているとかで宿に移動したけどな。」
「さっきキャシーも目覚ましてたぞ。他の女性たちはセイさんと一緒に庭に出ているし…ジミー君とクレイジンさんはシャーマンと一緒に精霊たちと何か難しい顔して話してたな。」
ソーズマンに続いてファイターまで顔をのぞかせ、チャーリーはどっどういうこと、と混乱した。
悪戯が成功したように笑いあう祖父たちは、まだ気絶している2人を起こさないように部屋に入りソファーに腰掛ける。
ソファーのそばにはチャーリーの剣や防具が置いてあり、チャーリーはほっと息を吐いた。
シャムリンは窓を開けるといいお天気すぎて眠くなっちゃう、とあくびを一つし夕食の準備だからと行ってしまった。
「そうだ。あいつが言ってた…というか念話とかいうので話しかけてきたけど、魔王線に敗れた勇者の紋は今後もかなわないと判断すると、次の代に行くためほとんどの効力を失うらしい。チャーリーの紋はまぁ新品っちゃ新品だからまだ経験不足と判断して、死後魂を運ぶ以外の能力がなくなって目に見えなくなるんじゃないかって…。」
すっかりくつろいだ風の二人はシャムリンにお疲れ様、と声をかけて軽く手を振る。
窓辺に向かうファイターを見ていたソーズマンは自分を見るチャーリーを見てそうだ、と思い出した。
「あいつって…大伯父さんですか?」
「うん。あ、そうそう。ここ。現あいつんち。フローラさんいわく、客向けのでっかい庭が裏庭で、魔王城に続くほうが正面の庭らしい。」
砕けた口調のソーズマンがいうあいつ、というのが一人しか思い浮かばず、確認するチャーリーにソーズマンがうなずく。
それどころか、重大なことをさらっと世間話をするかのように話した。
「キル君っていうのにきいたら一度しか説明しませんよ、って説明してくれたんだが…シャーマンぐらいしか理解できなかったな。なんでも、魔界と地上とでこの屋敷と城は同時に存在しているけど、地上では座標?といかいうのがずれて魔王城のそばには建っていないとか。で、いちばん近いのがモスペガスでよく利用しているんだとか。実際の位置は裏の…正面側を見るとわかるけど魔王城にとっても近いんだ。他の四天王らの屋敷も見えるしな。まぁ…そっちも広い庭なんだけど、こっちお庭は地上にしかなくて魔界にはないけど、正面の庭はどっちにも存在するとか…。ややこしいな。」
だから正面側から出ると魔界に出ちゃうらしいから気をつけてな、と何でもないことのように言う。
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