気絶から覚めたばかりだというのに、どういうことなのか、と一瞬気が遠くなりかけるチャーリーだが、ふとあることに気がついた。
「大伯父さん…もうそんなに回復してるんですか?」
 こっそりファイターがあけた窓を閉めて、ファイターをテラスに締め出そうとしていたソーズマンは手を止め、チャーリーを振り返る。
「さすがに喉と目がまだ無理って言ってたけど、さっきシルフ…ロードクロサイトに思いっきり張り手するぐらいの元気はあるぞ。あと、じっと寝ているのがいやだって言って見えもしないのに、庭に出たいとか、ちょっと鍛錬所にとか念話で言うぐらいだし。さっきシャムリンちゃんに言われて探して捕獲して…あんまりにもうるさいから様子を見に来たロードクロサイトに渡したら、念話で話したのかしばらくお互い黙った後、ローズが張り手かまして、それを受けたロードクロサイトが後は持っていくというんで任せた…という感じだ。」
 あんなに満身創痍だった大伯父さんことローズを思い浮かべ、魔物の回復の速度に驚く。
いや、そもそも勇者の紋があるため、回復速度は速いだろうが、それでもまだ一週間もたっていないはず。
 
 
「一度でいいからあいつの今が知りたくて押しかけたんだ。もうその時のあいつの顔ときたらなんというか、傑作だったな。」
「いや…あれを傑作と言えるのは多分ヘアリンとソーズマンだけじゃないか?」
 その時を思い出したのか、笑うソーズマンに窓を閉められそうになったことに気がついた、ファイターが部屋に戻りながら呆れたようにため息をつく。
「いやいや。鳩が豆鉄砲食らったようなきょとーんとした顔して…そのあと怒ってたけど全然応じなかったらあきらめてため息ついただろ。あいつ、軍を指揮する立場になったし魔物になったしで少しは変わったかと思ったのに、小さいころと全然変わらないからな。しっかし、まさかまたきょとん顔見るとは思わなかった。」
 ようやく笑いがおさまるソーズマンは、懐かしむように目を細め幸せそうでよかったとつぶやく。
状況がいまいち理解できない…というか理解を超えた状況にチャーリーは何とも微妙な面持ちとなる。
 魔王戦に敗れた自分たちはなぜか四天王長の屋敷で手当てを受け、そこにはなぜか祖父たちがいて…。
 
「大伯父さんの屋敷ということは…大伯父さんもいるんですか!?」
「あぁうん。ここは2階だけど、この上の3階の奥に部屋あるぞ。ただし、猫又とか以外は立ち入りできないように結界張っているから弾かれて痛い思いするだけだぞ。」
 今更それ?と思うソーズマンだが、まぁこんな急な話に混乱せずにはいられないだろうな、と心の中で思う。
そもそも、自分たちがここにいるので、普段は魔王戦後にどっかの森に放り出されるはずのチャーリーらを引き取ることになったローズは魔王と交渉し、シィルーズ姿でたびたび一緒に出かけているらしい。
 
 ローズの屋敷は一階に猫又達の部屋と地下水の洞窟がある渦ドラゴンのミズチの部屋。
2階にはフェンリの部屋とシャムリンの部屋と客間。
そして3階がローズの書斎やら私室やらがあるスペースがある。
外出するときや庭に出るとき、食堂に行く時ぐらいしか降りてはこない。
というかそもそもいないことのほうが多い。
主に軍関係だったり、魔王関係だったり弟子関係だったり。
 
「どうしてもローズと話ししたいと思ったらシャムリンちゃんに頼むか、庭の世話しているときとかに声をかけるかだけど…。今はシルフに押しつけちゃったからしばらくは部屋から出てこないとおもうな。前会ったときはシルフとローズは主従関係だったけど…妙に仲がいいというかローズに対してロードクロサイト側の距離が近くなったような気が。」
 今にも大伯父のところにいきそうなチャーリーに、今は言っても無駄だというソーズマンはここにきてからの魔王と幼馴染を振り返り、心の中でだよなぁ、と呟く。
 別れてからの期間が長いものの、十数年間幼馴染をしていたソーズマンとしては、根本的なところがあんまり変わっていないように見えるローズに心配というか、不安が大きい。
 とくに覚えている限りではあるが、恋愛とかに無縁というかドン鈍で魔王を慕ってはいるようだが、その手に関しては思春期の子供並みの感情で手をつなぐのもやっとなんじゃないかとさえ思ってしまう。