普通、お風呂というと水を汲んできて、下で炊いて暖めて、と入るのだがここはそうではないらしい。
 もうもうと立ち込める湯気。
 広い一段下がった浴槽。
壁には栓が刺さっており、その上にはなにやら棒があり、しずくが落ちる。
 
 慣れた手つきで栓を回すソーズマンだが、上にある棒からお湯が出てきてチャーリーは目をしばたかせた。
 エリーの実家…ノーストラリア国の城でも似たようなのを見たが、紐を引くと少しの間お湯が流れるという仕掛けで、それも座って使うような位置にあったはず。
「あんまり使うと後でセイさんに睨まれるけど、すごいよなこれ。シャワーとかいうらしい。」
 同じように栓をひねるとお湯が降り注ぎ、チャーリーは慌てて栓を元に戻した。
横にいるベルフェゴを真似て少しずつ回すとお湯も少しずつしか出てこない。
 
 
「そういえばお前達がいたな。まぁいいか。」
突然聞こえた声にびっくりして勢いよく栓を回し、ポンっと軽い音共に栓が吹き飛びその穴から勢いよくお湯があふれる。
どうにかして栓を、と思うが勢いが強すぎて栓がはまらない。
なんとかしようとするチャーリーの手から栓を奪い取り、軽々と栓を入れる。
「ソーズマン、これ、ついでに洗っといてくれ。」
「え、なにこれ寝てる?」
「爆睡中だ。」
 ぽいっと何かを祖父に渡すロードクロサイトは困惑するような、苦笑いをこらえている様な声の祖父。
しかたないなーというソーズマンはぶつぶつ文句を言いながら爆睡する”それ”を洗う。
 ソーズマンの反対隣りでシャワーを浴びる魔王…そしてその間で幼馴染である祖父に抱えられている元勇者で四天王長の大伯父チューベローズ。
 さすがにベルフェゴも驚いたのか、固まっているがチャーリーはもう頭が考えるのをやめているんじゃないかと思うほど頭が働かない。
 
「ほら、ローズ。掴まれ。ってくっつくな洗いにくい。そうそう。頭洗うから手離すからな。」
 よほど慣れているのか、声をかけるソーズマンにローズは緩慢に動き、ソーズマンに凭れる。
「よっぽど慣れているんだな。つねろうが何しようが全然起きないのに…。」
「だってこいつ…修行中に疲れるとすぐ寝るから、俺が抱えて洗うはめになって…。むか〜〜し俺んちの風呂が壊れた時に一緒入ってたし…。どんなに爆睡してても、俺とかホスターさん…義理父さんの声には反応するんだよな。」
 まったく、というロードクロサイトに幼馴染の特権だ、と笑うソーズマン。
もうこの旧勇者一行と魔王軍に深くかかわるのはやめよう、とチャーリー兄弟は頭を切り替えた。
いろいろ考えていたらきっと、一生かかっても理解できない。
 
 すっかり流すと、爆睡していた当の本人がわずかに身動ぎ、自分がもたれているソーズマンを確かめるように触り、顔を上げた。
 誰だかわかったのか、露骨にいやな顔をするとすかさずソーズマンが頭をひっぱたく。
「洗ってやったのにその態度はないだろう。え?なんで俺がいるって?だってここ、お前の屋敷。」
 何とか自分で立つローズは念話で会話しているらしく、ソーズマンを小突いた。
「ほれ、あっちいってこい。」
 ほいっとロードクロサイトに向かって押し出されるローズは何か言おうとしたのか思いっきり咳き込んだ。
「げほっ…本当…どうして…げほっ…くたばれ爺共…」
 しゃがれた声をひねり出すローズはソーズマンに悪態をつくと、疲れ切ったようにふらりと倒れかかる。
「やかましい童顔爺。ドチビ。」
 ロードクロサイトではなくファイターに向かって倒れるローズをファイターは支える代わりに頭をはたく。
「はたくなって言ったって、お前の頭がちょうどいい高さにあるからいけないんだろうが。悔しかったら成長してみろガキンチョ。」
 腰に巻いた手ぬぐいを巻きなおすローズは何か言い返そうとするが、うるさい、というロードクロサイトの手加減なしの叩きに耐え切れずにその場に転ぶ。
 並んで傍観を決めていたチャーリー兄弟はさっさと浸かって出ようと、転ぶ大伯父と若干心配しつつも、ロードクロサイトの小脇に抱えられる元仲間を見て笑う祖父らを眺めていた。