4人から離れたところに入るロードクロサイトは顔を赤くして逃げ出そうとするローズを難なく押さえつけて抱える。
「それで、いつ頃出るつもりなんだ?」
観念して大人しくなったローズを抱え直し、ロードクロサイトはくつろいでいる元勇者一向の仲間に問う。
「あぁ、みんなが目を覚ましたら出ようかなって思ってたところだ。俺らはただ見学に来ただけだし。」
「後はポリッター君だけだろうけど、まぁもうすぐ目を覚ますだろうからな。なぁ…そこのちびすけはまた寝たように見えるけど。」
もうすぐ出る、というソーズマンにファイターも頷き、ついでに先ほどまで暴れていた元仲間を指さす。
「また寝たのか。ケアロスの作る薬が効きすぎるのが問題だな。おかげで暇つぶしも何にもできない。つまらん。」
仕事したくないーというロードクロサイトはローズの頬をつねってみるが、元々目が負傷して閉じているため、起きているのかどうかが若干あいまいだ。
それでも暴れないところを見ると本当に寝ているらしい。
「あんまり虐めるなよ。それでなくとも豆腐メンタルなんだからさ。は〜〜やっぱり心配だな。恋愛経験皆無だろうから…娘が嫁に行く時よりもめちゃくちゃ心配なんだけど…。」
インキュバスとしてのなんやかんやは詳しいだろうが、慈愛の勇者でありながら”愛情”を知らない幼馴染兼元勇者の恋愛事情は前途多難だろうな。
とソーズマンは深々とため息をつく。
「わかるわかる。娘が嫁に行く時も心配でアーチャーにぶんなぐられたけど、ローズの場合は心配を通り越してなんかもう見届けないと成仏できないっていうレベルだな。」
なー、と言い合う爺二人にチャーリーとベルフェゴは大伯父さんってどういう扱いだったんだ?と首をかしげた。
少なくとも、伝説で聞いていたような功績を残した勇者にしては仲間の間での扱いが雑だ。
そんな孫の心中に気がついたのか、ソーズマンが笑う。
「ローズは俺らにとって大切な仲間で、何よりも守ってやりたい大切な家族だ。でも…あの時…。ローズが四天王長を一人で倒しに行った後、ちゃんと叱ってあげればよかったのに…俺らはローズを想うあまりギリギリの精神状態だったローズを褒めた。その結果、面と向かって家族だのなんだの言える立場じゃなくなったからきっとローズは怒るだろうけどな。」
扱いが雑というよりも、心配だからこそなんだ、と苦く笑うソーズマンは小さくため息を吐いた。
「あぁ、あの時か。その時はどうだったか知らないが…ローズの部屋に念写したのがあるぞ。念写は自分を念写するのが難しいからローズ抜きだが、お前たち一行と家族のがセイらの写紙にまぎれて置いてある。」
家族がうんぬんという話を聞いたロードクロサイトは当時を思い出し、当時の四天王長カウワディスを一人で倒し屠った勇者と一行を思い浮かべた。
時間内だったのと、自動帰還の呪文を勝手に自力で解いたために最期まで戦いを楽しんでいた戦闘狂の魔人。
それを勇者の紋の力なしで屠った勇者は今現在その後継者として四天王長についている。
人生って何が起きるかわからないな、と眠った部下を見下ろした。
「それならよかった。そういや、念写ってどういうやつなんだ?たま〜に人間でもできる人がいるって聞いたことあるけど、いまだにちゃんとしたの見たことないんだよな。」
目をしばたかせるソーズマンにファイターはよかったというと、念写について尋ねる。
ん?と首をかしげるロードクロサイトは手から黒い渦を出し、蝙蝠を飛ばさせる。
戻ってきた蝙蝠の持っている白い紙を手に取るとどんなんだったかなーとつぶやきながら目を閉じ、指で挟んだ紙に魔力を込めた。
ばちっ、という音共に色がついた紙を蝙蝠に運ばせ、ソーズマンに渡す。
「決戦前とどっかの森で遭遇した時のだ。他に印象に残っているのはないな…。念写は思い出せることも大事だが、見たことのあるものはどこかしらに記憶されている。そこに意識を向けて思い出した瞬間に残す古い魔法だ。」
今とほとんど姿の変わらない大伯父と、若いころのソーズマン、ファイター、ヘアリン、アーチャー、シャーマン。
普段の様子が写されている写紙では6人ともに和やかに笑っていたが、決戦前は複雑な表情でそれでいて強い光りを持った目を向ける勇者と、同じように鋭い光りを目に潜めたソーズマン達がいた。
初めてみる祖父の若いころの姿にチャーリーとベルフェゴは興味深げに写紙を見つめた。
そして同時に、今現在の大伯父に勇者として生まれたことの重責から解放されて本当に今が幸せなのだとわかり、それを与えた魔王達に挑む自分達の愚かさを痛感したのだった。
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