夕食を終え、部屋に戻ったチャーリーはテラスへと出た。
 すっかり陽が落ちた庭はほとんどが闇に隠れているが、月に照らされてほのかに浮かび上がる。
 月が映る泉や白い石で造られた東屋。
ふわふわとした光りを放ち漂う精霊のような蛍。
四季に関係なく咲く花々。
広い庭の一角にはバラだけが植わった場所があるのか、満開のバラが咲くアーチと生垣が見える。
 ここに自分たちがいても仕方がない、と庭をもう一度見つめてからチャーリーは部屋へとはいって行った。
 
 
「そうね。ここは私達がいていい世界じゃないわね。」
 朝食後、ラウンジで集まったネティベルはチャーリーの言葉に頷いた。
「そろそろ自分たちの本来あるべき場所に戻る時だな。」
「ジュリアンはエリーにずっと付いていきます!そこがジュリアンのいるべき場所です。」
 紅茶を飲むエリーにジュリアンは一生お仕えします、と元気なジュリアン。
「アイアンは一緒にイギナリデッドに来てくれないか。ワクチンを作りたい。」
「いく〜。あたしもぶくぶくあわあわのびんみているのおもしろいもん。わくちんっていうおさけもおいしい!」
 ヘイラーとパシは決戦中にソーズマンらと合流し、ここに来たという。そんなヘイラーの実験器具が気に入ったアイアンはワクチンをカクテルか何かと勘違いしつつ、ついていくと宣言する。
「わしも…もう婆さんと静かに余生を過ごしたほうがいいかもしれないのぅ。」
 鎧を脱いでいるパシはシャーマンにそういうと、シャーマンはそれがいい、と犬の姿のままうなずいた。
「アタシもおじいちゃんたちと一緒に帰ってみんなにおいしいご飯作ってあげなきゃ!!シャムリンちゃんがいっぱいレシピ教えてくれたの!」
 束ねたメモを大切に抱えるキャシーにファイターとアーチャーは笑うと楽しみねぇと顔を見合わせた。
「僕は先生と帰ったらいっぱい報告しなきゃ!」
 目が覚めてからいろいろ知ったことを師匠であるイチイやセス、アルダに言わなきゃというポリッターはネティベルに言われて報告書を書きながら手を上げた。
「おっおいらはこのヌリカ国に残って宿のヒュノスさんのところではっ働くことになったから…。いっ一族にはもう戻れないけど、やっやっぱりここが一番かっ体に合う気がする、」
 魔物であり、命の基ともいえる自分の魔剣が戻ったウエハースは何十年かすればまた以前よりは弱いが腕は再生できると、そういい魔物の国であるヌリカ国に残ることを一行に告げた。
 
「俺は…婆様が…家に戻ってちゃんと人間として生きていきたい。」
 精霊としての力がなくなり、人と同じ声が出せるようになったジミーは隣にいる祖母が憑依した犬の召喚獣を帽子越しに見つめた。
「なに、わしはもう十分生きたんじゃから仕方があるまい。こっちに来て間もないころに、肉体はただ息をしているだけの存在になってしまったからの…憑依を解けば長年酷使し続けた肉体も解放されよう。これは自然の摂理じゃ。気にするでない。」
 優しく見つめ返すシャーマンは尾を振ると犬のまま笑う。
「墓参り行くな…と言いたいが、私たちももう後は迎えが待つばかり。なら言えることはただ一つ。シャーマン、あっちでまた会おう。」
「そうだな。俺らはどういう形でどうなるかわからねぇが、天族になるなら会えるだろうし、そんときはよろしくな。」
 シャーマンの頭を撫でるアーチャーとその傍らに立つファイターは俺らももう歳だ、と笑って見せる。
天界の食べ物を食べたせいで肉体の老化が遅いとはいえ実年齢としては十分長生きをした旧一行は明るく先を見つめた。