上空ではローズの放った魔法をソーズマンの襟蜥蜴で分散させ攻撃を防ぎつつ、二人の息の合った技で撃ち落としていく。
ふと、ローズが落ち始めると、まだ上昇していたソーズマンはくるりと空中で身をよじり落ちてきたローズと足の裏を合わせ、それを土台にローズは再び舞い上がる。
剣先に魔力を集め、身をひねるように回転すると飛んでいた怪物は一瞬ののちにすべてが撃ち落された。
「あんな上空にいるから何の魔法を使ったかわからないけど…すごいわね…。」
思わずそんな言葉が付いて出たネティベルは周囲にいるあの四天王長の弟子を見る。
息のぴったり合った一行に少し悔しそうだが、それよりも…他にも初めて伝説とまで言われる一行の戦いを目撃した部下たちと同じようにそろって感心したように目で追っているのがその表情からよくわかる。
チャーリーの性が“絆”だが、この一行は互いを…何より勇者と仲間たちとの間に強い愛情と思う気持ちによって固く…もろく結ばれていた。
「愛は人を強くも愚かで弱い者にもする…。なるほど…“最強”であり“最弱”の性というのはこのことか…。」
同じように見上げていたエリーはぽつりとつぶやき、それを聞いていたキルは今とりかかっている銀月の一行についての経歴について起伏があったのはそういうことかと一人心の中で納得した。
歴代でもかなり不安定な力を持った…ある意味博打のような一行の実力。
「そうだな。ローズの場合、人を想うローズの気持ちというか愛情は攻撃力に加算され、人から想われる…愛されることで防御力が加算される。あのころのローズはお人好しで、ひどく偏った純粋さがあって、人…というか命そのものを想っていた。人も魔物も関係なく。」
一行を懐かしそうに見るロードクロサイトはそういうと、だがとつづけた。
「だが他人はローズの異装と桁外れの強さに畏怖し、心の底から想うこともましてや愛情を注ぐこともなかった。均衡がとれてこその力だ。愛されるために徐々に壊れ、そしてゆがんだ。今は慣れていないがために部下たちから寄せられている想いに戸惑って時々どこかに隠れているな。」
「あまり師匠は話してくれないので今度からは銀月の一行については魔王様に伺います。今も誰にも想われていないだの言えば、それはそれは大勢に抱き着かれることでしょうね。そういえば最近魔王様と師匠、以前よりも仲がいいと聞きましたが…何かあったんです?」
ロードクロサイトの言葉になるほど、とメモを書き留めるキルはそういえば…と顔を上げた。
どうしたという風な魔王と師匠を見比べるが、そういえば最近は今までとは違ってローズが追いかけているのではなく全力で逃げようとして捕獲されて伸びているのを城内やローズの庭先で見かける、というキルにロードクロサイトはさてなぁとはぐらかす。
それを聞いていたセイは大きく溜息を吐き、本当にいつ逆転したのかしら、ともう一つ大きく溜息をこぼした。
嫌いだから逃げているわけでないのだが、あの旧一行が散々心配して来たことが現在骨身にしみてよくわかる。
【ローズ!戦闘ついでに性で回復したらどうだ?】
下にいるアーチャーたちがぎりぎり当たらないように、豪雨のように呪文を落とすローズにそういえば、というロードクロサイトは念話を飛ばした。
【あぁ、それもそうですね。只、今このコンディションで調節してるので…もう少ししたら使います。】
帰ってきた返事は一応忘れてないですよ、というものだ。呪文をやめたローズに向かって闇属性の魔法が飛ばされる。
それをローズはまるで舞うかのようによけ、空中を自在に駆け抜ける。
『あ、そうだ…師匠に空中戦を教えてもらう予定でした…。しかし…ほかの魔法が使えない鬼である私にあんな真似どうしろと。』
できるできるといっていたが、氷と炎だけで足場を作ることはできない。
どうやって動いているのだろうかと足元に注目する。
キルのつぶやきにロードクロサイトはよく見ろ、とローズの足元に若干見える魔力の塊をキルに示した。
『あれは足元に風属性の魔力をためて、それを蹴りだして足場にしているな。キルも風は起こせるだろうが。おとといの朝にローズが言ってたぞ。と言ってもほとんど寝言に近かったが…。』
『あぁ、なるほど…オロチよりもなかなか難易度が高そうですね…音と光をなるべく殺して空気の塊を作る…。というよりも…また師匠の血を吸っているんですか?師匠が寝ている間に血を吸うと起きるの遅くなるんですから…ましてや現在治療中ですし。』
『ん?ああ、まぁ…代わりに魔力与えてるし、おかげで調子いいだろう。本人もピンピンしてるんだし。』
鎖を使った自身の技の難易度と比較し考えるキルだったが、じろりとあきれた目でロードクロサイトをみる。
深々と溜息を吐くセイはいずれノーブリー様にもお分かりになりますから、と首をかしげるキルに伝える。
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