落下してきたソーズマンだが、地面から生えてきた大きな葉に乗り、くるりと地面に降り立った。
「キスケ、ありがとう!」
 寄ってきた狼型の魔物を切り飛ばすソーズマンは種に魔力を込めているキスケに軽く手を振る。
 ふん、と顔をそむけるキスケだが、小さな尻尾がわずかに上機嫌に揺れ、小さな耳もピコピコと動く。
 ふと、ソーズマンに覆いかぶさるように怪物が伸びあがり、一瞬反応が遅れる。
その怪物を引き裂くように降りてきたローズはソーズマンの隣に立つと剣をふるい、一瞬にして気を張り巡らせる。
 構えを取るローズにソーズマンも同じ姿勢になるとわずかな間が生まれた。
「「シンクロ率100% 双鎌鼬 大旋風」」
 呼吸が重なった瞬間、同時に放つ技は一つの技になり、縦横無尽に駆け回る。
 
 
 残り僅かになった怪物は一か所に集まると合体し、巨大な姿となっていく。
 その間を狙っていたのか、ローズは剣を自分の前に掲げた姿で動きを止めた。
すると光がローズの内側から放たれ、ふわりとローズの体が浮き上がる。
そのまま背に抽象的な翼が片翼表れるとその反対に黒い、シィルーズの時に生えるヒラガーナの“つ”のような形をした翼が現れた。
 そのまま一対の翼になると力強く開いていく。
 思わず見とれていたキルは一行に目を向けると同じように動きをとめ、先ほどのソーズマンと同じように呼吸を合わせている。
 よく見ればソーズマン達も光に包まれ、徐々にそれが大きくなっていた。
「やっぱりあのシィルーズの胸の奴は勇者の証が変化したものか。急に変化するから何だと思ったら。」
「魔王様?ドゥリーミー様に通報致してもよろしいかしら。」
 開いた翼を見ていたロードクロサイトが翼自体が勇者の証だったのか、と納得するとそばにいたセイはじろりと睨みつける。
「翼はもともとあの形だったのでは?」
「いや、あれはローズの天族化した姿だと思ってたから…名残で残っているのかなーって。今の状態のローズは印を全開に開放した姿だし、シィルーズの状態じゃないと“つ”は生えないかと思ってた。」
 資料では、というキルに対しロードクロサイトは不機嫌な様子のドラゴンの視線から避けるようにしながら首をかしげる部下に説明する。
 
 
 地面が揺れ、空が暗くなるとローズの頭上に黒い円が現れた。
仲間たちの光がそこへと吸い込まれるように伸びると、ほんのりと色がつく。
そのまま発光していくとまるで月が膨らむかのように光が膨れていく。
 ふと、ローズに向かって伸びる光の量が増え、それに比例するようにローズから放たれる光がさらに強くなる。
 光の渦がローズを取り巻くように巡るとふわりと二人の女性のような姿が現れた。
 全く気付いた様子のないローズの周りをくるくると飛ぶとくすっ、と笑って光の渦の中へと戻る。
 今のはなんだろうとチャーリーは仲間を振り返るが、少し光が強いのか魔物一同はやや眩しげに眼を細めており、誰も気がついた様子はない。
エリーたちは見上げてはいるが急激に高まる魔力を感じているだけで、あの影に対する反応はない。
 見上げているロードクロサイト達が何か話していたようだが、イングリッシウ語だったため内容はわからないが、別のことを言っているような感じではあった。
 
 光が一層強くなり、満月のような真円となると、ローズは剣を振りおろし、巨大化した怪物に切っ先を向ける。
「月下光 慈雨」
 ローズの言葉が呟かれるとともに月がまたたき、光の帯が地上を照らしだす。
一瞬、辺り一面が白光したかのように光に包まれ、対象である怪物だけを圧倒的な光によって包みこんだ。
光はすぐに止むと、怪物はそのいた痕跡さえも残さず姿を消し、光の帯は光の粒に変化すると辺り一面をキラキラと銀色の光で照らしながら、静かに地面へと落ちて消えていった。
 光に包まれていた仲間たちは無傷というよりも、先ほど受けた細かいダメージさえもなく、それどころか戦う前よりも元気そうに大きく伸びをしていた。
 ソーズマンは剣を納めると上を見上げ、いまだ光の羽をもち宙に浮かんでいる幼馴染を見上げている。
 
 ふと、地面がかすかにふるえていることに気がついたチャーリーが視線を戻すと、大地がわずかに震え、みるみるうちに地面に無数のひびが入っていた。
 ロードクロサイトも驚いているようで、震える大地を見つめている。
 まだ何か来るのか、とわずかに体が緊張するチャーリーだったが、地面から出た緑色の物に目を丸くした。
 地面から顔を出した“芽”は瞬く間に伸びると戦闘で傷ついた大地を呑みこみ、あっという間に林を作り上げてしまった。
 あまりのことに驚き、ぽかんと口をあけていたチャーリーはあわてて口を閉じると、辺りをそっと見まわした。
ネティベルとジュリアン、ベルフェゴ、ジミー…そしてエリー。
皆が皆おんなじ表情になっていることに気が付いていないらしい。
 ふと、上を見上げたロードクロサイトが蝙蝠に包まれると、蝙蝠の群れとなって飛んでいく。
羽が消え、ぐらりと傾いたローズの真下に蝙蝠の渦が作られると、その中からロードクロサイトが表れて落ちる四天王長を抱きとめた。
 下で待機していたソーズマンはその様子に微笑むと、アーチャーに呼ばれて視線を下へと戻す。