地面につくよりも誰かに早くに抱きとめられたローズは、閉じていた目を開いた。
近距離にあるロードクロサイトに顔を赤くし、わたわたともがき、頭をはたかれる。
「先ほどの呪文…すごい威力だが…。まさか林が生まれるとは思わなかったな。」
「えぇっと…僕もあんなに威力が高くなるとは予測してなくて…。ちょこっと芝生が生える程度だと想定していたのですが…。なんというか…想像以上にその…あっ愛…想いが強かったようで…。」
 顔を真っ赤にしながらもじもじというローズにロードクロサイトはふぅん、というとあ、と声を上げた。
「ローズ、目が見えているのか。体の調子も最善まで戻っているな。」
「勇者の紋を全開にして回復をしたのですが…突然全快しまして。まさか体中の怪我も全て治るとは思いませんでした。」
 ローズの眼を覗き込むロードクロサイトに少し首をかしげるローズだが、突然ぐんっと体が軽くなったぐらいしかわからないという。
 
 地面に降ろしてもらったローズは何かを話している、かつての仲間に目を向けると眉をひそめた。
「なにじろじろ見て…。」
「いや、今アーチャーからお前のサガで発せられていた想いの光の帯を聞いてたんだけどさ。な、ファイター。」
「そうそう。アーチャーの右眼だけが見えるからな。」
「あの糞女につぶされた目の代わりに、天族から貰ったはいいものの旅の途中は全く役に立たなかったこの眼。けど、今日はいいもん見れた。とりあえず、赤飯炊いてやるよ。」
 髪で隠れた右目を示すアーチャーは意味ありげに口角を上げる。
「はい!?」
「やきもきしてたけど、これはもう赤飯だな。」
「シャムリンちゃんに祝膳作ってもらわないと。」
「だから何の話!?」
 集まってきた仲間に頭をなでられ、はねのけるローズだったが、どんどんと話を進めていく仲間たちに入っていけない。
それどころか全く意図が分からない。
「息子がなかなか嫁を取らなくてやきもきして、やっと嫁とった時よりもほっとしたかも。」
「見届けなきゃ成仏できんと思っておったが…杞憂だったようじゃな。」
「だから!!人の話を聞いてよ!棺桶に両足つっこんで笑ってないで!!」
 シャーマンまでもが笑うとローズがツッコむが、かつての仲間たちは一斉に視線を向けた後、よかったよかったとほっと息を吐いている。
 地団駄を踏みそうなローズだが、部下の手前それはできない。
これ以上醜態はさらしたくないと、ソーズマン達に詰め寄るが、見ていた部下たちはきっと地団駄を踏みたいんだろうなぁ、かわいいなぁと、温かい目で見守っていたのだった。
 
「だから、私の右眼。因縁吹っ掛けられて見えなくなったのを、天族がお前のサガで発せられる想いの力が見えるように細工したの覚えてるよな。お前の攻撃力に変換されるお前から相手を想う気持ちは赤。お前の防御力に変換されるお前を想う相手の気持ちは青。強ければ強いほど太くなる光でどう伸びているか見えるって。」
「んなの知ってるよ。前は僕から放たれる赤ばっかで青が全然なかったんでしょ。」
 おまえは本当ににぶちんだな、というアーチャーは髪で隠れた右眼を軽くたたき、覚えてるよな、という。
 覚えてるよ、というローズだがいまいち意図が分からない。
「あぁ、青が多くなっていたってことか。で、ひときわ太いのがあったと。」
「そう。そういうこと。自覚があって何よりだ。こいつ本当ににぶちんだからなぁ…。」
 ローズの頭に顎を乗せたロードクロサイトの言葉にアーチャーはうなずく。
 チャーリー、キル、その他少数の部下たちの頭にも疑問符が浮かぶ中、理解した面々はなるほど、と心の中で呟きながら中心となっているはずの人物に視線を向ける。
 どういうことなのさ、というローズを皆は笑顔で見守ると、笑い声の代わりに生まれたばかりの林が風にそよぐ音が聞こえるのであった。