屋敷に戻ったローズはロードクロサイトに引っ張られて現在は厨房にいる。
ついでに旧一行までもが厨房に行ってしまったため、現一行…チャーリーたちはもう一泊することとなってしまった。
ネティベル達師弟は別に読めるものならどうぞ、ということで屋敷内にある書庫に足を運び、現在は読書に没頭中だ。
エリーも蔵書に興味があると言って書庫にこもり、ついていきたいジュリアンだったがそれよりも城で役に立つため、とシャムリンの後をついてメイドの基本を学びに行き…
アイアンもアイアンでヘイラーと共に薬草の植えてある一角に行ってしまっていない。
ジミーは祖母の形見である羽の耳飾りを手に取り、それを自分の耳へと装着する。
「じいちゃんの話では戦いが始まる前に、すでにホッカイトウにある肉体は最後の息を終えたんだって…。そう話していた。」
ベルフェゴの言葉にチャ−リーはそう、と返すと伝説の一行の…本当の意味での最後の瞬間を見てしまったこと…見れたことに衝撃を受けていた。
「兄ちゃん…俺、まだ未成年だけど…家には帰らない。」
「え!?」
あんな絆を見せられて、絆の勇者としての性(さが)が揺さぶられたチャーリーは窓から外をぼんやりと眺めていたが、ベルフェゴの言葉にはじかれたように振り向いた。
「俺…いろいろ考えてて…。いろいろな世界を見てみたいなって。じいちゃんに話したらばぁちゃんには話しとくって。役立たずで皆と同じように戦えなくて…それが悔しくて。だから俺、もっと世界を知って成長したいんだ。それも今すぐに。」
手を見つめるペルフェゴはずっと、自分でかけてしまった呪い…それも怠惰で満足していたころが悔しくて、怒りがあふれて…どうすればいいのか、と考えていたという。
「ベルフェゴもいつの間にか成長したんだね。」
食堂に集まった一行は、上機嫌でパフェを食べる魔王に遭遇し、何とも言えない表情になった。
器の大きさから察するに甘いものが得意でない人が見れば胸やけがしそうな…ジュリアンら甘いもの好きにとってはちょっとうらやましいような…そんな大きさであったことが推定される。
なるべく距離をとって座る一行を見計らってか、食器を持った猫又達が現れ、配膳をしていく。
当たり前のように魔王の前にも配膳されるのをみて、まだ食うのか、とネティベルは呆れた。
「うわ〜〜。あれ全部食べたのかよ。カロリーやばそ。」
食堂に入って来たソーズマンは手に持った鍋を置くと、ほとんど空になった器をみて思わずうめく。
「あたしらだってその10分の一サイズだったけど、いや〜〜ないわ〜。」
大皿を手に入って来たアーチャーも顔をしかめると最後をかき込む魔王を見て、大きな溜息を吐いた。
「これぐらい普通に食べるってローズ言ってたけど…まさか本気で完食…しかもこれから夕食食べるんだろ?…割と大食いな。」
「だから言ったでしょ。魔王様のお腹はブラックホールだって。起きてすぐでもこれぐらいぺろりなんだから。シャムリン、よそうの手伝って。僕は魔王様のとこかたしてからやるから。」
ソーズマンが持っていた鍋よりもさらに大きな鍋を持ったファイターの陰から、パンを盛った籠を手に続くローズがため息交じりに言う。
「誰がブラックホールだ。大体、ローズが負傷して食べれなかったから今食べているだけだろうが。大体、私よりもローズのほうが底なしだろ。」
「僕は少食です!!!変なこと言わないでください!!」
器を下げるローズをみながらなぁ、と同意を求めるロードクロサイト。
顔を真っ赤にしたローズはそう反論すると足早に奥の扉に消え、瞬きと共にソーズマンの隣へと戻ってきた。
「なぁ、アーチャー。こう言うのってセクハラか?」
「まぁ…セクハラというか無神経なだけだろ。」
こそっ、と長年連れ添った妻に尋ねるファイターに、アーチャーは呆れたような口調で返す。
「こいつって無神経なのか、天然…ではあるか。ただのおっさんじゃないのか?」
「魔王様はあぁやってジキタリス様が怒るのをたにょしんでいるだけにゃ…。ただにょおっさんというにょはとっても的確で反論できにゃい。」
こそこそと話すソーズマンにシャムリンがそうそう、と頷く。
「あ…すっご嫌なこと思いついたって言うか気がついたというか。」
魔王の分をよそうローズは手を止め、少しげんなりした表情となる。
首をかしげる仲間と手伝おうとしている現一行…そしてシャムリンが首をかしげる中、先ほどから会話が聞こえて真顔に怒りのマークが見え隠れしている主君をちらりと見た。
「エメラルダ様達にとってもよく似ているってこと。」
「あぁ、にゃんだ。ジキタリス様気がついてにゃかったにょ。…ジキタリス様がちゃんと持ってってにゃ。」
趣向とか流石親子だ、と呟いたローズはぞくりとする気配に冷や汗が背中を伝う。
自分に向けられたものではなくとも感じ取ったシャムリンはローズにこれ、と渡し念話で会話しているであろう二人を見比べる。
現一行でさえも冷や汗を流す空気が流れる中、不機嫌オーラを流す魔王に旧一行はやれやれ、とよそうのを続ける。
唐突に不機嫌そうなオーラを消し、意味ありげに笑う魔王と、赤面してしゃがみこむ四天王長の姿が、念話による話の結末を物語るのであった。
「あ。そうだローズ。どうせ老い先短い俺らの最後の頼みだと思って…4人で川の字いいか?」
「へ?…え、何。朝起きたら屍に囲まれるとか本当に勘弁なんだけど。」
一緒に寝よ、というソーズマンの言葉に少し顔をしかめるローズ。
だが、その理由にアーチャーはお玉を置く。
ファイターに声をかけると、それを見越していたファイターも手を止め、一緒になって元仲間を締め上げる。
「いたたたたた。わかったわかった!!こんだけ元気ならすぐ死にません。」
「わかればよろしい。」
3人がかりでいじられる元勇者が降参し、解放されると現一行はなんだかなーといつの間にか準備が終えた夕食にため息をこぼすのであった。
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