町外れに着くとそこには丸い目をし、巨大なもふもふとした毛に覆われた魔物が立っていた。
「と…ト●ロ?」
いや、さすがにそれはないなと首を振るローズだがなぜか服を着たその魔物は、特に敵意も見せずボーっとたっている。
肩から力を抜いたチャーリーの後ろからロードクロサイトはその魔物と目が合ってしまう。
「われさんは…ま…ウン…ロ…ドクロサイト様じゃないか。」
ぎろりと睨みつけるロードクロサイトに、
3回も言い直さなくてはいけなくなった魔物はポリポリと足をかく。
「あぁ…久しぶりだな…。なるほど。ここにいるという勇者一行はお前のところか…。」
訛りのきつい言葉にローズもチャーリーもクエスチョンマークが飛び交う。
「おう、われさんも相変わらずじゃのぉ。そうじゃ。
困っとる人とか助ける旅をしとるんじゃけぇの。気がつきゃぁ参戦してくれる仲間も増えとるんじゃ。」
「…まぁ元気そうだな。」
昔のなじみなのか、ややひいた様子でため息をつくロードクロサイトに自称勇者の魔物は目をしばたかせる。
ふと、チャーリーとローズに気がつき、2人を見比べた。
「印がついとるのぉ。ほぃじゃが銀髪のわれさんは人間じゃなぁで。
そこの若いの、われさんにこれをあげよう。わしが手に入れたけども、わしは魔物じゃ。サイズも合わんし鞘しかもてん。」
背にしていた何かを掴み取るとチャーリーの前に差し出した。
驚くチャーリーだが一体何なのかと素直に受け取る。手にしたのは一振りの日本刀…。
「あ!!!!天の正虎!!!うちのひいじじぃがぶっ壊した天の叢雲に正宗と虎徹を混ぜて直したっていう…。」
見たこともないなと、首をかしげるロードクロサイトの隣でローズは思わず声を上げる。
「天の…!?あぁ、確かローズの曽祖父が…。」
「天の叢雲って言ったら…僕の祖母の曽祖父が持っていたって…。」
がんばれよ〜と森に消えていく魔物にロードクロサイトが手を降り返しつつ、
思い出したようにローズに言うと不思議そうな声音のチャーリーを見下ろした。
彼は彼でローズの説明の内天の叢雲という言葉に考え込んでしまったようだ。
だがチャーリーの呟きにローズはむせこむ。
「ちょっとまって…けほっ…んっ。チャーリー君の祖母って…。」
「おばあちゃんですか?ユーチャリスって言います。
そういえばおばあちゃんのお兄さんも勇者だったそうです。今はどこかに行ってしまったそうで、大好きな兄だったからと悲しげな顔をしてしまうのであまり詳しい話は聞いてません。
ただ、一度帰ってきたときに貰ったという種から育てた綺麗な花の植物をとっても大事にしているんです。」
にこやかに答えるチャーリーにローズは思わず天を仰ぐ。
「…そっか。似ているとは思ったんだけど…。昔会ったことがあったから。元気にしてる?」
「はい。おじいちゃんといつも一緒にいます。旅に出るときはいろいろ準備をしてくれて…。」
やさしい祖父母なんですと笑うチャーリーに、よかったと答える。
ちょっと買い物があるからと、先に宿に戻るよう促す。
「そろそろ夕食の時間ですもんね。2人も早く戻ってきてくださいね。」
それじゃあ、と戻るチャーリーをロードクロサイトが見送る。
天を仰いでいたローズはこらえきれなくなったのか、下を向き袖で目元を拭く。
「…よかったな。」
ローズが時折妹のことを気にかけていたことを知っているロードクロサイトはそっと、ローズの頭を抱えあやす様にやさしく頭を叩く。ロードクロサイトの肩を貸してもらったローズは、小一時間静かに過去の妹と過ごした日々を思い出していた。
あんな別れ方をしたにもかかわらず妹は旅に出る前の優しい妹と変わらなかった。
そして、100歳の自分から考えれば妹は90歳。両親のときも思っていたが、自分が選んだ道とはいえ自分だけが取り残されまわりは老いて死んでいく。
その妹に対する嬉しさとそして悲しさがローズの涙にこめられていた。
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