「そっそういえばシッシヴァルはどっどうしてる?」
『ゲスが。母さんの名を気安く呼ぶなど笑止千万。』
 キルの母、シヴァルの名を呼び捨てにするウェハースに、
先ほどまでとは比べ物にならないほどの殺気を放ちウェハースを壁まではじき飛ばす。
吐き捨てるように魔界の言葉、イングリシウ語を言うと赤みがかった金の瞳を鬼の金へと変えた。
 
「馬鹿弟子!闇夜よ、その暗きベールに我を消せ、ブシンシィジェジェ[不可視結界]」
 ローズは怒りで鬼の血が増幅させられるキルの背後に回ると首筋に噛み付き、血を吸う。
血を吸うだけでなく、精気まで吸うのはインキュバスの特性を持ち合わせるローズにのみできること。
 血と精気を若干奪われキルは鬼の血を静めた。
鬼の血を吸った副作用で無理に力が増幅されるのをローズは必死にこらえる。
「…頼むから我を忘れないでくれよ。四天王の一角なんだから、
そんなことで我を失うのはやめてよね」
 大きく息を吐いたローズにキルははっと気がついたように目を向ける。
「本当にすみません!」
 正気に戻ったキルは慌てて頭を下げた。
「いいよ。同時に僕の食事も少し貰ったから。それより…あいつの判決って…。」
「知ってます。しばらく様子を見させてください。それから僕が…。」
 どおりで体がだるいはずだと、キルは徐々に塞がる吸血痕をなでた。
ならいいけどと、闇の結界を解くと部屋の明かりに目を細める。
 
 
「今一体なにが…。」
 とっさにローズが闇の結界を張り、人間であるネティベルらからキルと自分の姿を消したがために2人には何が起きたのかがわからない。
ただキルが怒りに暴走しそうになったということはよくわかる。
が、魔力が高くなりそれを抑えているローズと、怒りを静めたキルとのやり取りは見ていなかった。
「簡単なことだ。ローズがキルの体力を吸いそれで怒りが静まった。それだけだ。」
 闇魔法は闇を生きる吸血鬼などにはうっすらと見えるため、
簡単に2人に説明するとまぁしばらく黙ってみているかと壁際に丸まっているウェハースを見る。
ようやく魔力を押さえ込んだローズも吹き飛ばされ、ひっくり返っているウェハースを見た。
本人は何が起きたのかわからない様子で息子に首をかしげていた。