国王が貸してくれた船に乗り一行は休憩地点として磯縄島へと向かった。
「久しぶりにお家に帰るね!」
「ここがキャシーさんの実家がある…。」
 小さな島ではあるが南国の植物が生え、ジミーは珍しげにバナナを見上げる。
   
 
ふと、風が吹き赤い花が飛んできた。
「っへっくし!」
 顔に当たった花をとったローズは花粉かなぁとくしゃみをする。
照りつける太陽のためフードを被ったままのせいか、妙に熱い。
 
 キャシーに案内され着いたのは小さな平屋の民家。
そこへ丸太を担いだ初老の男性が反対の道からやってきた。
キャシーのように引き締まった初老の男性は細い目を一行へと向ける。
「おぉ、キャシー!お帰り。」
「おじいちゃん、ただいま!」
 元気のいい声に家からバタバタと走る音が響く。
「お姉ちゃんお帰り!」
 そういって飛び出てきたのはキャシーとはまったく違い、無邪気な笑顔を向ける子供達だ。
妹4人に弟3人。合わせて8人姉弟の大家族に祖父母。
両親は出稼ぎに出てしまい4・5日は戻らないという。
 あなた方が勇者一行の…と家へ招くキャシーの祖父はふと、
暑い中フードを被ったローブ姿の2人に目を向けた。
 キルは特に日差しに弱点があるわけでないため頭にバンダナを巻いているだけだ。
キャシーの祖父にまったく気にも留めていなかったローズと目が合うと、
丸太を担いだまま一行の間を通り抜け目の前に立ちはだかった。
首をかしげるローズだが、突然振り下ろされた丸太に反射的に体を動かしていた。
 
 
「なっ!?どっどうしたんですか!?」
 驚いたチャーリー達には丸太に叩きつけられたローブしか眼に映らず、一瞬ローズの姿を見失う。
だが、キャシーの祖父は後ろへ2歩すばやく下がると丸太を突き上げた。
トン、と軽い音がし、キャシーの祖父の背後にローズが現れる。
だが、ローズは攻撃せず背後へ一回転し短剣を取り出すと宙を切る。
一秒遅れてローズが始め着地した場所、そしてローズ周辺へ矢が突き刺さった。
 どこからと考えるより先に、地面に伏せたローズの頭上スレスレを唸りを上げる丸太が横になぎ払われる。滑るように間合いを取ると一瞬でキャシーの祖父の前に現れ丸太を粉々に粉砕し、
急いでその場を離れた。
 空をかいたキャシーの祖父の腕を掻い潜り飛んでくる矢を避ける。
この弓を引く者とこのキャシーの祖父との動きはまるで意思が通じているかのように
完璧なタイミングだ。剣をとるべきかと考えるが、どうしてもとる気にはなれない。
取るほどの相手でないのか、それとも別の理由があるのか。
ローズ本人にも分からないまま矢を避けつつキャシーの祖父の間合いに入らないよう突破策を練る。
 
 
「?」
 キャシーの祖父の動きと矢の連射速度が落ちてくると同時に、
ローズは自分の体の異変に気がついた。
いや、先ほどから違和感はあったのだが気に止めていなかったのだ。
 
目がかすむ。
矢が絶え、いまだと足を踏み出した瞬間ふらりとキャシーの祖父へ倒れこんだ。