「え?ローズさん、朝に出てしまったんですか?」
「あぁ、ネティベルさんの薬で大分良くなったのだが、体調を万全にするためにエルフの森、
ホーリーフォレストにのみ生える薬草が必要でね。それを飲んでから戻ってくるそうだ。」
心配はせずともあとで私の魔力を探して戻ってくるだろうというロードクロサイトに、
チャーリーは昨日の事を謝りたかったのですがと、下を向く。
やはりあの紋のことは気が付いていなかったのか、
とロードクロサイトとキルはチャーリーの様子から窺おうとするがいまいち分からない。
「そういえばお爺ちゃんとお婆ちゃん、昔勇者一行にいたって本当なの!?!」
朝から元気なキャシーの声に一行はファイターとアーチャーに注目した。
ちらりとロードクロサイトに目配りをしてから語りだす。
「あぁ、…約80年前だな。俺達は魔王を倒すため、
神に選ばれた者のみが持つ印をつけたやつとアーチャー達に出逢い、そして旅をした。」
「あたしは昔悪でね。町でよく食べ物やお金を盗んで暮らしてしていた。
憲兵に追われているとき、勇者一行の3人に助けられ仲間入りした。」
あの頃はたくさん魔物がいて結構苦しかったから、とアーチャーは笑う。
3人は自分を助けてくれたというと、キャシーはそうだったんだ!と、初めて聞くのか大変だったね!という。
「あの頃は本当に最悪だったよ。人間の中にも悪いのがたくさんいてさ、
一概に魔物だけが悪い時代じゃなかった。」
「人攫いに売買。奴隷に悪徳領主。今じゃあその大元があった国や土地は滅ぼされ、
魔物がはびこる場所になってしまったけどね。」
今じゃあ警戒するのは魔物ぐらいだものね、と2人は顔を見合わせる。
「私もプリースト先生から聞いたことがあるわ。闇の力が最も強かった時期だって。
今は魔界の闇の力は抑えられ、魔物が減った分対抗する人間自身も弱くなってしまったと聞きたわ。」
ネティベルは昨日から自分の中に渦巻く疑問があるが、ひとまず頭を切り替え2人の話を聞いていた。
プリーストという名前に2人は少しの間考え、頷く。
「昨日も少しネティベルさんに聞いていたけど、プリーストもジミー君の大大婆のシャーマンも、
あたし達のパーティーにいたわ。」
本当に懐かしい、というアーチャーにジミーはシャーマンがその話をしていなかったのか、口をポカンと開け驚く。
まだ元気?という問いに頷いた。
「大昔の魔物が残したという闇の遺跡で、闇の力を吐き出し続けていた水晶を破壊したからな。
闇に染まったやつらはほとんどが消え、魔物だけでなく、
人間からも苦しめられていた人々は解放された。しかし…俺達が払った代償は大きかった。」
どんな、と息を呑む一行越しにファイターは細目をチラリとロードクロサイトに向け、外を見る。
ロードクロサイトはその一瞬で軽く首を横に振っていたのだ。
「何が起きたんですか?」
真剣なまなざしのチャーリーにアーチャーは悲しげな表情で詳しくは言いたくないわという。
「ただ。破壊するのでなく、封印すればよかったと、そう今でも思う。」
確かにとロードクロサイトは内心頷いた。
闇の水晶にはその闇が出た先で何をしたか、それらも全て記憶されていた。
根本的に抑えるならば破壊が一番だ。
そう考えたローズ達はためらいもなくそれを破壊しに行った。
万が一、自分達が魔王に敗れたとしても後に生まれる子らにとって最も良い方法だとそう信じて。
それが魔王を倒せる希望に暗雲をもたらすことになるとは誰一人知らずに…
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